2016年06月09日

名器レス・ポールの生みの親は90歳を過ぎても演奏し続けた伝説のギタリストでもあった…6月9日はそのレス・ポールの誕生

執筆者:萩原健太

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レス・ポール…と聞いて、まず思い出すのはギターだろうか。キース・リチャーズやジミー・ペイジら多くのギタリストが愛用するエレキ・ギター。

が、レス・ポール。これ、実は人の名前だ。60年以上前、ギブソン社製の最高峰ギター、レス・ポール・モデルを生み出した偉大な男の名前。と同時に、まだまだレコーディング技術も発達していなかった1940年代に画期的な多重録音法を編み出した男でもあり、多くのギター用エフェクターを開発した技術者でもあり、妻メアリー・フォードとのデュオで50年代に30曲の全米ヒットを放った凄腕ギタリストでもあり…。

1915年6月9日、ウィスコンシン州生まれ。13歳で音楽界入りしてから80年以上、現役ギタリストとして活動。夫人とのデュオだけでなく、自らのトリオで、あるいはビング・クロスビーやヘレン・フォレストら人気歌手のバックとして無数の名演を残した。50年代半ばにロック時代が到来してからは表舞台での派手な活動も見られなくなったものの、彼が作り上げた名器レス・ポール・ギターはその後も存在感を発揮し続けた。先鞭をつけた多重録音技術も60年代以降のロック音楽の飛躍的な発展に貢献した。

そんなこともあって、近年彼の名は音楽家としてより発明家/開発者として語られがちだが。彼の数々の発明が世紀を超えたのは、その音楽に対する限りない愛情ゆえだった。

95年以降、09年に94歳で他界する直前まで、レスは毎月曜日、ニューヨークのジャズ・クラブ「イリディウム」に自らのトリオを率いてレギュラー出演を続けていた。ぼくも99年と08年にそのライヴを体験した。そして、驚いた。彼が愛機レス・ポール・レコーディングを抱えて椅子にもたれ、ギターを弾き始めた瞬間、おじいちゃんの老後のゆったりしたプレイを楽しむつもりで客席に座っていたぼくは、いきなりとてつもない一撃を食らった。耳がそばだった。最初の数フレーズでノックアウトされた。

そこで披露されていたのは老演奏家の枯れたプレイなどではなかった。往年のレコードに刻まれていた彼の深く、優しく、切なく、ウィットに富んだ凄腕プレイそのものがぼくの耳めがけて飛び込んできた。あの一瞬の衝撃は忘れられない。もちろん、往年のスピード感や押しの強さは影をひそめていたけれど。豊かな歌心は健在。そして何よりも、音だ。トーン。誰にも真似できないレス・ポールならではのギターのまろやかな音色がぼくの涙腺を思い切り刺激した。

本物だ。本物の音楽家が、真の伝説が、今ぼくの目の前で生で演奏してくれている。泣けてきた。

演奏だけでなく、トークも絶好調。ベーシストが一所懸命ソロをとっている間じゅう、目の前のお客さんとくだらない会話を交わしてげらげら笑って。しばらくしてから、ずっとソロを弾き続けていたベーシストのほうを向いて「あ、まだ弾いてたのか!」とびっくりしてみせる、みたいなギャグも炸裂。下ネタも連発。99年に見たときは、ゲスト出演していたカサンドラ・ウィルソンのバンドのギタリストがストラトキャスターを持っているのをめざとく発見し、やれやれと首を振りながら「フェンダーか…。安物だな」と大御所らしい毒舌を繰り出してみたり。

レスは何ひとつ変わらず、大好きな店で、大好きなギターをひょうひょうと奏で続けていた。光栄にも彼に電話インタビューさせていただいたとき、これからの夢をたずねてみたら「そうだな、最高にハイファイな補聴器を作りたいね」と笑っていたっけ。音楽家としても発明家としても、最後までクリエイティヴなエネルギーを放ち続けた偉人だった。

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