2018年12月21日

1964年12月21日、黛ジュン「天使の誘惑」が第10回日本レコード大賞に輝く

執筆者:鈴木啓之

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作曲家・三木たかしの実妹であり、13歳の時にはジャズ喫茶でポップスを、高校生になると進駐軍キャンプでジャズやR&Bを歌っていたという黛ジュン。1964年にビクターから本名の渡辺順子名義でデビューするもヒットには恵まれなかったが、その後、1967年に黛ジュンとして東芝キャピトル・レーベルから「恋のハレルヤ」で再デビューしてヒットを飛ばし、一躍スターとなった。そして翌68年には「天使の誘惑」で第10回日本レコード大賞を受賞する。まだ大晦日の発表でなかった時代のレコ大、この年は12月21日に渋谷公会堂で開催されており、その日から本日でちょうど50年を迎えた。



「恋のハレルヤ」のデビュー・ヒットに続き、「霧のかなたに」「乙女の祈り」と連続ヒットを飛ばした黛ジュンは、グループサウンズ全盛時代に咲いた一輪の花だった。GSサウンドの影響著しい楽曲の数々とパンチの効いた歌唱で、後に“一人GS”の第一人者として再評価されるに至る。「天使の誘惑」は彼女の再デビュー後の4枚目のシングルとして、1968年5月1日にリリースされた。それまでの3枚と同様に、なかにし礼の作詞、鈴木邦彦の作曲による作品である。鈴木はアレンジも手がけ、スチールギターを用いたハワイアンムードの楽曲に仕上げたところ、夏向きのリゾートミュージックとなって好評を得た。その次のシングル、実兄・三木たかしの作曲による「夕月」もヒットして、この年の『NHK紅白歌合戦』でも「夕月」が歌われる予定になっていたが、レコ大受賞を受けて、紅白の歌唱曲も急遽「天使の誘惑」に変更されたのだという。




「天使の誘惑」が昨今中古市場で高値となっているのは、カップリング曲の「ブラック・ルーム」がクラブ・シーンで再注目を浴びているのが原因。2016年には新たにシングル・リリースもされた。本人曰く、自分の中で一番好きな曲だそうで、レコードには渡辺たかしとしてクレジットされている兄の三木たかしの作曲で、レコーディングの際は作詞のなかにし礼やディレクター、プロデューサーら、スタッフ全員でコーラスをつけたのだという。兄の声も入っていることから、今でも懐かしく聴いているという歌だけに、近年の再評価は黛自身も嬉しかったに違いない。ちなみに黛をデビューから担当した東芝のディレクターは、ザ・ビートルズを担当したことで有名な高嶋弘之氏。黛が複数のレコード会社にテープを持ち込んでいたところ、ラジオ関東(現・ラジオ日本)のディレクターの紹介で高嶋氏へ行き着き、東芝のキャピトル・レーベルで採用になったのだった。洋楽専門のレーベルながら、ザ・ワイルドワンズなど、和製ポップス部門も始動していたタイミングも功を奏した。


トレードマークとなったミニスカートをはじめ、衣装は常に自分でデザインして作っていたという。ヘアスタイルも自らの考案であったというから、その辺りの自己プロデュース能力や楽曲の魅力に加えて、スターに成り得た要素には、石原プロからのデビューということもあっただろう。石原裕次郎の強力なバックアップで、石原のリサイタルの時に一緒にステージに立ったり、レコード大賞の栄冠を手にした時のパーティーに石原が花束を持ってお祝いに駆け付けたシーンは芸能ニュースにクローズアップされて話題となった。なお、レコ大は「天使の誘惑」が受賞した翌年から帝国劇場へ舞台を移し、12月31日の開催が常となる。カラー放送になり視聴率も大幅にアップしてさらなる発展を遂げてゆくのはご承知の通り。


黛は71年にレコード会社を移籍して活動を続け、80年代にはソニーから出された「風の大地の子守唄」「男はみんな華になれ」をヒットさせた。2009年に兄・三木たかしが亡くなって以降は活動も抑えめになり、病気治療で一時活動休止するも完治して復帰。現在は充電中だが、歌手活動の復活が期待されている。古希を迎えた彼女が取り組みたいのはバラードだという。自作曲での再出発をしたいとも語っており、再び歌声を聴かせてくれる日も近いことだろう。

黛ジュン「恋のハレルヤ」「天使の誘惑」天使の誘惑 LP 天使の誘惑 LP(ジャケ裏) 「夕月」ジャケット撮影協力:鈴木啓之


≪著者略歴≫

鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。

ブラック・ルーム 黛ジュン 2016/11/2

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