2015年08月21日

1976年8月21日、友部正人の名盤『どうして旅にでなかったんだ』が発売。しかし、このアルバムは差別用語使用という理由で後に回収、発売禁止となった。

執筆者:北中正和

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1976年の今日、友部正人の名盤『どうして旅にでなかったんだ』が発売された。


『どうして旅に出なかったんだ』はシンガー・ソングライターの大塚まさじによってプロデュースされた。友部正人と大塚まさじは、まだ大塚まさじが大阪で「ディラン」という店のスタッフだったころからの知り合いで、友部正人は大阪に来たときは、よくその店に立ち寄っていた。


演奏には中川イサト、佐久間順平、SKY DOG BLUES BANDが参加して、友部正人の作品の中では音楽的に最もロック色の強いアルバムに仕上がっている。友部正人の歌声にも、それまでにもましてざらついた味わいがある。


どの曲も言葉数が多い。言葉数の多い歌は、一般的に、説明が増量されがちだが、彼の歌には無駄がない。彼の歌を聞いていると、優秀な探偵が推理を働かせて犯人を追いつめていくのを見ているようなスリルがある。ときには聞いていて、こちらが追いつめられるような錯覚に陥るほどだ。


歌のテーマは旅や移動やそこで出会った人たちなど、旅にまつわるものが多い。旅することはいつの時代も若者の成長にとって大きな意味を持つが、60年代から70年代にかけては、特に放浪の旅に若者が憧れを抱いた時期だった。そんなこともこのアルバムは感じさせる。


 彼は一般的にはシリアスな歌い手として知られているが、たしかにシリアスな歌が少なくないが、よく聞いてみると、くすりと笑いたくなるところが、随所にある。厳しく批評的に感じられる歌も、実は自分に問いかけているところもあるのだと思う。「ぼくのこと君にはどう見えるのか」という曲などその最たるものかもしれない。


このアルバムのオリジナル盤に寄せた文章で、谷川俊太郎は次のように書いているが、そのとおりだと思う。


「友部正人といると、ほんとうにほんとうのことしか喋りたくなくなるので、ぼくはいつも、ぼくにとってのほんとうのことを探して、そのために少しつらくなることがある。」


このアルバムでぼくが最も好きなのは、最後に入っている「ユミはねているよ」という歌だ。普段は現実に厳しい目を向けた歌をうたっている彼が、ここではかぎりなく優しい表情を見せる。


このアルバムは差別用語使用という理由で回収、発売禁止となった。後に自主制作で、『1976』と改題され、LP、CD化されたが、その際、若干曲はヴァージョンちがいで収録された。ジャケットの写真も変更された。


 彼が言葉を差別的に使っているわけではないのに、不適切な言葉が歌に出てくるという理由で、オリジナル・アルバムが正当な評価を得られないでいるとすれば残念なことだ。

写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト

友部正人

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