2015年05月17日

かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう

執筆者:小貫信昭

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『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』。大好きなこの作品集。以前、黒沢進が早川義夫にインタビュ-した記事を読んだことがあるが、それによると、ジャックスを解散した早川は、日本の童謡や唱歌、野口雨情などを再認識しようとしていたらしく、そのことが反映された内容でもあるという。そしてなんと、このLPの制作期間はたったの二日間。当時、早川はURCに勤めて給料をもらう身であり、経費削減ということもあったそうだ。伝説の名盤誕生の裏にはこうした現実的なエピソ-ドがあるわけだ。興ざめ? いやとんでもない。この世のすべてのことは、まず現実があって、そこから伝説も生まれるわけだ。その立場からこそモノを言いたい。


ところでこのLP。裏面にご本人が「能書」と題したライナ-ノ-ツを寄せているのである。「僕はこのレコ-ドをどうしても流行に乗り遅れてしまうような方に捧げようかと思う」。そんな感じで始まるんだけど、すごくこの文章からは影響を受けた。
そもそも「流行に乗り遅れる」とはいったいどういうことなのか。そういうボ-トレ-スみたいなのがどこかにあって、それは全員が必ず参加しなきゃいけないものなのか。だからって投げやりな態度で全てをやり過ごすわけにもいかないのが人生なのは承知の上で、ふとそんなことを思ったのである。


例えば今、どこかの川縁に佇んでいるとしよう。目の前には水の流れ。最初に目がいくのは一番速いところだろう。でもその脇にもまたその脇にも様々な流れはあり、もつれ合い、先を目指すのだ。どれを選ぶかは自分次第。速いのが好きならそのように。木々がしな垂れ淀んでいて、動こうとしないかのような岸の凹みを好むならそれも自由だ。この「能書」に感化されたあの日の自分を想い出した、ふと、こんなことを書いている自分が居た。


なお、ご存知のように早川は、いったん音楽シ-ンから去るものの、1994年に復帰して『この世で一番キレイなもの』を発表する。ジャックスやURCなど一切知らない若い音楽ファンにも歓迎されたのだ。そして現在も精力的な活動を続け、次のライヴは6月28日(日)「鎌倉歐林洞ギャラリーサロン」で行われる。

2015.6.28湘南SPECIAL LIVE 2015~あじさい~Vol.14 いい人はいいね、鎌倉はいいね。早川義夫 >

早川義夫

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