2015年09月10日

GSでもフォークでもロックでもない異端のバンド「ジャックス」

執筆者:中村俊夫

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今から47年前(1968年)の今日9月10日は、ジャックスの1stアルバム『ジャックスの世界』がリリースされた日。筆者がジャックスというグループの存在を知ったのもこのアルバム発売直後ぐらいの時期で、ラジオの深夜放送で本アルバム収録の「からっぽの世界」を聴いたのが最初と記憶している。当時、GSや洋楽ヒットチャートに夢中だった中坊の耳に入って来たジャックスの音世界は、まさに<異様>のひと言。後に歌詞の冒頭のフレーズが「ボク唖になっちゃった…」であることを知るが、初めて聴いた時は「ボク星になっちゃった…」と空耳してしまい、続いて「ボク寒くなんかないよ」「静かだなぁ海の底」といったフレーズが不気味な声で歌われるので、これは水死した男の臨死体験を歌っているのだと勝手に解釈し、背筋がゾッとしたことを覚えている。バックの音も全編に流れるトレモロを効かせたギターと不安定なフルートの音が<三途の川>というか死後の世界を表現してるみたいで、ホラー楽曲と呼べそうな趣である。


このようにジャックスとの出会いは心霊写真をいきなり見せられたような衝撃を伴う体験だったが、その後TBSテレビ『ヤング720』で「マリアンヌ」「われた鏡の中から」を演奏する<動く>彼らの姿を初めて観たことで、このグループに対する<得体の知れなさ感>はますます強くなっていった。なにしろ同じエレキ・ギターをフィーチャーしたコンボ編成バンドで、ヴォーカルの早川義夫などモップスやフローラルを彷彿させる長髪にサングラス、ヒッピーのような風体だというのに、同時代のGSとは一線を画す<何か>をジャックスは放っていたのだ。おそらく当時の誰もが彼らをGS視していなかったのではないだろうか? 少女向け雑誌『週刊セブンティーン』で「異色GS」として紹介されたのを唯一の例外として…。


元々、1965年に私立和光高校3年生だった早川義夫が同級生の男女と結成したPPM(ピーター、ポール&マリー)スタイルのフォーク・グループ「ナイチンゲイル」を母体として66年に誕生したジャックスは、メンバー・チェンジを繰り返すうちに、早川義夫(ガット・ギター)、谷野ひとし(ウッド・ベース)、木田高介(ドラムス、フルート、ヴィブラフォン)、水橋春夫(12弦アコースティック・ギター)というライナップが揃う。その楽器編成からもわかるように、所謂モダン・フォークともフォーク・ロックとも異なる独自のスタイルで「からっぽの世界」のようなシュールな世界を歌うバンドへと変貌しており、すでに彼らは同時代のフォーク・シーンからもはみ出す異端性を発揮していたのである。


67年9月にヤマハ主催の『ライト・ミュージック・コンテスト』に出場。惜しくも優勝は逃すものの、その一般的なフォーク・グループとは異なるオリジナリティが審査員たちに絶賛され特別賞を受賞する。これがきっかけとなり、ヤマハから楽器提供やスタジオの無償提供などの便宜を図ってもらえるようになった彼らは<エレキ化>へと一気に進んでいく。これはGSブームが到来していた時代背景とも無関係ではないだろう。それでも前述のようにGSとは同類項に認識されなかったわけだが、面白いことに68年2月、若松孝二監督の映画『腹貸し女』のサウンドトラック用として彼らは、「マリアンヌ」「裏切りの季節」等のオリジナル曲と共に、テンプターズの「忘れ得ぬ君」、カーナビーツの「おまえに夢中さ」(オリジナルは外国曲)といったGS楽曲のカヴァーもレコーディングしているのだ。昔、音楽雑誌のコラムで早川が「タイガースの歌なんて童貞ソング」といった批判的な内容を書いていたと記憶しているが、テンプターズやカーナビーツには一目置いていたのだろうか? それとも単なるシャレ? いずれにせよとても興味深い選曲である。


たしかに、タクト・レーベルから68年3月にリリースしたデビュー・シングル「からっぽの世界」のB面曲「いい娘だね」や、早川のサイケな風貌だけで判断するならば、ジャックスをGSのひとつと分類できるのかも知れない。しかし、渡辺プロダクションやホリプロといった大手芸能プロダクションではなく、フォーク系の高石事務所に所属していた彼らはテレビの歌番組や日劇ウェスタンカーニバルとは無縁で、もっぱらフォーク系コンサートに出演することが多く、既成の芸能システムの中でコマーシャルな音楽に終始するグループが大多数を占めたGSとは似て非なるものだった。しかし、フォーク・シーンの中でもなんとなく居心地悪そうなのは傍から見ても明らかで、それが「異端のバンド」たる所以なのかもしれない。


アルバム『ジャックスの世界』発売直前の68年9月1日、水橋が脱退。やがて木田が池袋のジャズ喫茶で見つけてきた角田ひろ(現つのだ☆ひろ)が加入する。角田はジャズ・ドラマー富樫雅彦の門下生で、まだ高校生ながらプロ・ドラマーとしてのキャリアを積んでいた強者だった。木田から誘われた時、タクト盤の「マリアンヌ」を聴かされ、そのフリー・ジャズ的要素に興味を惹かれたことで、ジャックス参加を快諾したという。彼の加入によってジャックスはよりロック色を濃厚にしていくが、69年、GSに替わって頭角を現してきた海外の新しいロック動向に呼応するニューロック勢(フラワー・トラヴェリン・バンドやブルース・クリエイション等)とも異なる立ち位置に居た。まさに、GSでもフォークでもニューロックでもない真のオリジナルリティを確立した孤高の存在。それがジャックスなのである。

ジャックス

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