2017年07月02日
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2017年07月02日
村下孝蔵が天国に旅立って18年になるが、代表曲「初恋」は現在30を越えるアーティストにカバーされ老若男女幅広い層から愛され、歌い継がれている。生前は抜群の歌唱力とギターテクニックで人気を集めた村下だったが、その作品は「初恋」の様な初々しい青春時代の歌から「ゆうこ」「踊り子」の様な大人の恋愛を歌った曲までバリエーションは広く、独特の繊細な世界観を創り出している。今回は、そんな村下の創作活動の原点となっている初期の名作を御紹介させて頂きます。
村下孝蔵が1979年、第一回CBSソニー・オーディションに出場した時、私はオーディション事務局のスタッフだった。村下は広島でアマチュアとして精力的にライブ活動をおこない自主制作アルバムも制作して実績があったが当時既に26歳、オリジナル曲はいわゆる叙情派フォークで、80年代に向かってシティポップスが盛り上がっていた時期に時代遅れな印象は否めなかった。しかし当時まだ若手ディレクターだった須藤晃さんが制作希望を申し出てくれて、念願のプロデビューを果たした。
そして2年後に私は村下のマネージメントを担当する事になった。村下はアルバム2枚、シングル3枚をリリースしていたが「春雨」が有線などで少し話題になった程度で、ライブも小さなライブハウス程度の集客力しかなかった。そして私の頭の中にはオーディション時の「年齢」「叙情派フォーク」などのマイナス要素が蘇っていた。私は村下の良さを理解する事は出来ないまま新宿のライブハウスに初めてライブを観に行ったのだった。
村下は東京でのライブに緊張していた様子で、方言の強いトークで進められるステージ運びは素人そのもの。自信の無さが露骨に出てしまって肝心の歌唱力やギターテクニックが活かせないでいた。しかし「松山行きフェリー」という曲だけは松山へ行ってしまう彼女を「僕の事など忘れて幸せに暮らして!」とカッコよく手を振って見送る明るい歌だ。村下の実家は映画館で、中学生の頃に、そこで観た「エレキの若大将」を始めとした加山雄三の多大な影響を受けていた。「松山行きフェリー」は「瀬戸内海の若大将」的な香りのする曲だった。私はこの路線の曲をもっと作って欲しいと思っていた。そして私が初めて聴く最後の曲「丘の上から」と言うスローバラードが始まった。「君を乗せて行く船が港を離れるのを、ここで見送るのも照れくさいから、いつか二人で行った港の見える丘の上から君を見送るよ」歌詞を聴いて私は驚いた。その曲はまさに「松山行きフェリー」の続編なのである。それも「松山行きフェリー」ではカッコ良く彼女を見送っていたのに、いざ本当の別れの時になって、どうしようもない悲しみや寂しさがこみ上げてきてしまった男の切ない本音がひしひしと伝わって来る曲だった。私は、今までこんなに正直に自分の気持ちをストレートに歌う男性アーティストを見た事が無かった。「年齢」とか「時代遅れ」などのマイナス要素を乗り越えて胸倉を掴まれた様な気がした。私はライブの後、楽屋で村下に「『丘の上から』はとても良い曲だね!」と声を掛けた。村下は「あの曲は僕の中でも特別なんです。」と、照れながら答えてくれた。
私は「丘の上から」が自主制作盤「それぞれの風」に収められている事を知り、早速アルバムを取り寄せて聴いてみた。収録されている楽曲の半分はソニーから出ている3枚のアルバムの中に新たに録音されて入っていたが、残りの曲も含めて全てが松山へ行った彼女と過ごした日々の事が歌われていて、その大トリが「丘の上から」だった。(「それぞれの風」でソニーで新録音されていなかった曲は全て村下の没後「純情可憐」というアルバムに自主盤の音源をそのまま使って収録された。)
私は「丘の上から」をレコード化して欲しいと須藤ディレクターに談判してレコーディングが決まり、当時のツアーメンバーだった田代耕一郎さんのギターとアレンジ、久米大作さんのシンセサイザーにより、ほぼライブアレンジと同じ雰囲気で音源は完成した。そして「初恋」のB面として世に出る事になった。
村下孝蔵フォーエヴァー-最後の東京「同窓会」-
7月15日(土)昼の部14:00~、夜の部17:30~
Mt.RAINER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
チケットの予約・お問合せはキャピタルヴィレッジ(Tel.03-3478-9999平日11時~19時)
≪著者略歴≫
嶋田富士彦(しまだ・ふじひこ):70年代にアルファにて荒井由実などを担当。79年CBSソニーに転職しオーディション担当。村下孝蔵などのマネージメントや宣伝、ライブハウス支配人などを勤め2012年定年退職。最近は長年の夢であったシンガーソングライターとして東中野のライブハウスを拠点に活動中。
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