2018年05月23日
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2018年05月23日
限られたお小遣いやお年玉を貯めて高校時代に買ったレコードというのは、何十年経っても不思議と覚えているもので、僕の場合、中古レコード店のハンターで80年代前半に購入した10ccのベスト・アルバム『10cc Greatest Hits 1972-1978』(イギリス盤)は、今でも自宅のレコード棚のなかで大事に保管され、気まぐれな主がたまにプレーヤーに乗せて針を落とす日を静かに待っている。
このアルバムが、僕と10ccとの出会いだったが、その購入理由は単純明快で、バンドの二大ヒット曲である「アイム・ノット・イン・ラヴ」と「愛ゆえに (The Things We Do for Love)」が両方とも聴けたからだ。お金の無い高校生にとって、それはとても大事なポイントだった。
今から43年前となる1975年の5月23日は、その「アイム・ノット・イン・ラヴ」のシングル盤がイギリスでリリースされた日だ。全英チャートで見事ナンバーワンを獲得したほか、アメリカ(2位)、カナダ(1位)、アイルランド(1位)など、世界中で大ヒットしたこの曲は、10ccの代表作のみならず、70年代のロックを代表する名曲との評価を獲得している。当時のスタジオ技術を駆使して作り上げられた壮大で優美なサウンドは、今の耳で聴いても全然古臭くないどころか、むしろ新鮮そのものである。
ビートルズ直系のメロディ・センスを持ったエリック・スチュワート&グレアム・グールドマンと、偏執狂的で危ういパロディ・センスを発揮したロル・クレーム&ケヴィン・ゴドリーという二組の個性が融合したグループ、10ccにとって、シングル「アイム・ノット・イン・ラヴ」と、その曲をフィーチャーした彼らの最高傑作『オリジナル・サウンドトラック』こそは、メンバー4人の個性が最大限に発揮された作品といえた。次作『びっくり電話』(76年)を最後に、ゴドリーとクレームがグループを脱退。10ccのもうひとつの大ヒットである「愛ゆえに」(77年)は、残ったスチュワートとグールドマンのデュオ体制で生み出されただけに、オリジナル・メンバー4人のセンスと個性がもっとも良い形で融合したアルバム『オリジナル・サウンドトラック』が10ccの最高到達点だったことは、疑いの余地がないだろう。
僕が「アイム・ノット・イン・ラヴ」を最初に耳にしたのは、先に述べたベストLPを購入するすこし前、ラジオのFENだったと記憶している。キャッチーで美しいメロディ・ラインと壮大なコーラス……一度聴いただけで虜になってしまう曲だった。以前、ムーンライダーズの鈴木慶一さんにインタヴューした際、しばらくアメリカのカントリー・ロックを聴いていた慶一さんがイギリスの音楽に戻るきっかけを与えてくれたのが、「アイム・ノット・イン・ラヴ」であり『オリジナル・サウンドトラック』だった、という話をうかがったことがある。70年代中期の音楽シーンに「アイム・ノット・イン・ラヴ」が与えたインパクトの大きさが分かろうというものだ。
余談ながら、僕がベスト盤に続いて購入した10ccのアルバムは、『ブラディ・ツーリスト』(78年)→『愛ゆえに(Deceptive Bends)』(77年)→『オリジナル・サウンドトラック』(75年)だった。単純に、中古レコード屋さんで見つけた順に購入したのだが、今でも彼らのアルバムのベスト3を挙げると、この3枚になってしまう。どれも大切な愛聴盤である。
ところで、当時どこかの音楽雑誌を読んでいたら、10ccというグループ名の由来が、“4人の精液の量がおおよそ10ccだから”と書いてあって、思わずニヤリと納得してしまった。というのも、ひと癖もふた癖もある彼らの音楽性にピッタリだと思ったから。後日、その話はウソだと知り、すこしガッカリした僕だった(笑)。
≪著者略歴≫
木村ユタカ(きむら・ゆたか):音楽ライター。レコード店のバイヤーを経てフリーに。オールディーズ・ポップスを中心に、音楽誌やCDのライナーに寄稿。著書に『ジャパニーズ・シティ・ポップ』『ナイアガラに愛をこめて』『俺たちの1000枚』など。ブログ「木村ユタカのOldies日和」もマイペース更新中。
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