2019年02月15日
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2019年02月15日
2月15日は、「春一番」という言葉が初めて使われた日だという。春一番とは、2月から3月にかけて初めて吹く強い風のこと。春を告げる風といった意味に使われる。この言葉の由来には諸説あるのだが、生涯をかけてフィールドワークを続けた孤高の民俗学者・宮本常一がこの言葉を採集し「俳句歳時記」で紹介したことにより、この言い回しが広まったという説もある。
音楽ファン、なかでもフォークが好きな方ならば、「春一番」という言葉に特別な想いがあると思う。70年代の初頭から、大阪の天王寺公園野外音楽堂で開かれていた「春一番コンサート」を思い浮かべるからだ。
「春一番コンサート」は、「BE-IN LOVE-ROCK」や「ロック合同葬儀」といった野外イヴェントを仕掛けていた福岡風太が主催したコンサートで、71年に大阪の天王寺公園の野外音楽堂を舞台にスタートした。「春一番コンサート」(通称:春一)の特徴は色々とあるのだが、まずは大阪発であったこと、プロデューサーであり舞台監督でもあった福岡風太を中心とした手作りのイヴェントであったこと、そしてフォークもロックも分け隔て無く出演していたことなどが挙げられる。特に最後の項目は重要であり、それにより、日本のフォークやロックの発展に重要な役割を果たした。
第1回目の71年の出演者を見ていくと、高田渡、友部正人、ザ・ディランII、加川良、中川イサト、金延幸子といったフォーク勢に加え、伊藤銀次が在籍していたグラス・ブレイン、神戸出身のジプシー・ブラッド、ブードゥー・チャイルといったロック・バンドが出演している。
72年、73年、74年と、年を追う毎に出演者も充実していくのだが、その参加者を書き出してみると、はちみつぱい(蜂蜜ぱい)、遠藤賢司、小坂忠+フォージョーハーフ、あがた森魚、はつぴいえんど、中川五郎、センチメンタル・シティ・ロマンス、いとうたかお、山下洋輔トリオ、なぎらけんいち、武蔵野タンポポ団、朝野由彦、西岡恭蔵、上田正樹&サウス・トゥ・サウスなど、日本のフォークとロックを形作ったそうそうたる面子が総出演しているのが判る。
レコード会社やマネージメント事務所の制約もなく、出演者にたっぷりの時間を与え、出演者も観客も自由に音楽を楽しむ。これが春一の定番スタイルであったのだ。
余談ながら、筆者がやっていたジャグ・バンド・スタイルのグループ、ジャム・ポットも77年の「春一」のステージを踏んでいる。舞台に出た瞬間の、客席からの熱い歓声が忘れられない。同じ日に出た松村正秀は、翌年の78年にGONTITIを結成し、チチ松村を名乗ることとなる。
天王寺公園の野外音楽堂という最高の拠点で続いた「春一」なのだが、諸事情により、79年を最後に一旦幕を閉めることとなる。再開されたのは16年後の95年で、阪神・淡路大震災後に代替施設としてオープンした大阪城野外音楽堂で開かれた。
翌96年には、服部緑地野外音楽堂に会場を移し、イヴェント名称を「祝春一番」として開催、その後も開催規模を大きくしずっと続けられている。2018年のラインナップを見てみると、大塚まさじ、金子マリ、豊田勇造、友部正人、有山じゅんじ、木村充揮といったヴェテラン勢だけでなく、蠣崎未来、gnkosaiBAND、歌屋BOOTEE、スタンダップ・コメディアンのナオユキなど、若手や中堅のミュージシャンにも広く門戸を開いている。大阪からの自由な風、それが「春一番コンサート」なのだと思う。
「春一番実況録音盤2枚組」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
≪著者略歴≫
小川真一(おがわ・しんいち):音楽評論家。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、ギター・マガジン、アコースティック・ギター・マガジンなどの音楽専門誌に寄稿。『THE FINAL TAPES はちみつぱいLIVE BOX 1972-1974』、『三浦光紀の仕事』など CDのライナーノーツ、監修、共著など多数あり。
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