2018年01月07日

[recommend] 閉塞した日本のロック状況に新たな突破口を切り開いた『ワンステップ・フェスティバル』

執筆者:中村俊夫

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現在、大規模な野外ロック・イベントといえば、1997年以来、毎年夏に開催されている『フジロック』あたりが代表格だが、アマチュア、プロ問わず日本中のロック・バンドが一堂に会するという“古き良き時代”スタイルの野外ロック・イベントとして忘れられないのが、1974年7月31日から8月11日まで福島県郡山市で開催された『ワンステップ・フェスティバル』である。


1970年に映画『ウッドストック』に触発され創刊したミニコミ誌『ワンステップ』で反公害・自然保護を啓蒙する活動をしていた佐藤三郎が中心となり、「緑・広場・夢」をテーマに企画・実施された『ワンステップ・フェスティバル』は、所謂プロフェッショナルな興業団体ではなく素人同然の有志たちが立ち上げたイベントで、郡山市公会堂での都市計画・異常気象についてのシンポジウムや花火大会 (7月31日)に始まり、阿波踊りをはじめ各地の有名祭が集結した「日本のまつり」(8月1日)、野外音楽堂でのアマチュア・バンド・コンサート(2日、3日)、そして4日~10日に亘り(6日は清掃や植樹祭のため休み)、開成山公園内の陸上競技場でロック・コンサートという壮大な規模の“夏祭り”だったのである。


祭りのメインであるロック・コンサートに関しては、佐藤氏の依頼で内田裕也がプロデューサー役を努め、各地のアマチュア・イベンターたちが応援に駆けつけた。70年代初頭の日本のロック黎明期から悪戦苦闘を続けてきた彼らは、かつてない規模で行われようとしているこのコンサートが、当時の閉塞した日本のロック状況の新たな突破口となると信じ、その実現のために文字どおり手弁当で東奔西走したのである。


そんな彼らの尽力もあって、クリエイション、キャロル、サディスティック・ミカ・バンドなど人気バンドから、つのだ☆ひろ、エディ藩、かまやつひろし等のベテラン勢、レコード・デビューしたばかりのダウンタウン・ブギウギ・バンド、四人囃子、まだ地域的な知名度しかなかった外道、サンハウス、シュガー・ベイブ、センチメンタル・シティ・ロマンス、めんたんぴん、上田正樹&サウス・トゥ・サウス、ウエストロード・ブルース・バンド等まで、総勢50組以上がほとんどノーギャラで出演。さらに沢田研二&井上堯之バンド、クリス・クリストファーソン&リタ・クーリッジ(バック・バンドには現ベンチャーズのジェリー・マギーがいた)、ヨーコ・オノ&プラスティック・オノ・スーパー・バンド(スティーヴ・ガッド、ランディ&マイケル・ブレッカーなどが参加)の出演がフェスティバルにが花を添えた。来日組の参加は同時期に大手招聘元による東京公演もセットされていたことによって実現できたのだろう。


そんな日本のロック史上最大の規模とも言える大イベントに対し、郡山市と教育委員会は市制50周年の記念事業としてサポートを表明していたが、開催直前になって市が後援をとりやめ、市内の中学・高校は生徒のコンサート観覧を禁止した。理由はハッキリしないが、当時キャロルのコンサートなどでエキサイトした客による暴動騒ぎが起きていたことも影響していただろうし、なによりもロックそのものが音楽産業として確立されておらず市民権も得ていない時代である。かつてのエレキ・ブームやGSブームの時と同様にロックという“得体の知れないもの”が青少年の不良化の温床になるというお決まりの理由で、手っ取り早く規制という手段に出たものと思われるの。


しかし、開催期間中、郡山には全国各地からヒッピーのような風体の観客たちが大挙して押しかけたが事件らしい事件は起きなかったし、一番の混乱が予想されたキャロルやヨーコ・オノが出演するコンサート最終日(約3万人の聴衆が集まった)も、さほど厳しい警備体制が敷かれたわけではなかったが、死者やケガ人が出るようなことも無かった。酔客の喧嘩騒ぎ、警備スタッフと観客の口論、さらに舞台裏ではフェスティバルの運営をめぐって主催者側と応援スタッフとの間に確執もあったというが、フェスティバル自体は平和裏かつ盛況のうちに終了することができたのである。


『ワンステップ・フェスティバル』の成功は、日本各地の有望株バンドを紹介するショーケース的役割を担い、フォーク・ブームの次に来る潮流探しに躍起になっていたレコード会社の目をロックに向けさせた。実際、翌75年、イエロー、シュガー・ベイブ、ウエストロード・ブルース・バンド、あんぜんBAND、サンハウス、めんたんぴん、上田正樹&サウス・トゥ・サウス等が次々にレコード・デビューを飾った。ヨーコ・オノが同フェスティバルのために寄せた「ひとりで見る夢はただの夢だけど、大勢の人が同じ夢をもったら、それはもう夢じゃない」というメッセージさながらに、日本のロック状況の新たな突破口という “夢”は、『ワンステップ・フェスティバル』によって確かに現実のものとなったのである。


昨年12月20日には、『ワンステップ・フェスティバル』が残した映像(過去にDVD化済み)と音源を集めたCD20枚+DVD1枚から成る永久保存版ボックスセットがリリースされ話題を呼んだ。これを記念して、新年第一弾の『ダディ竹千代と中村俊夫の日本ロック昔ばなし』では、ゲストに四人囃子の岡井大二さんや、当時の『ワンステップ・フェスティバル』関係者をお招きして、この歴史的ロック・フェスを貴重音源・映像と共に徹底検証する。題して「追憶のワンステップ・フェスティバル」。お楽しみに!

 

『ダディ竹千代と中村俊夫の日本ロック昔ばなし⑯』

~追憶のワンステップ・フェスティバル~

出演:ダディ竹千代、中村俊夫

ゲスト:岡井大二(四人囃子)、他

日時:2018年1月11日(木) 18:30(OPEN)/19:30(START)

料金:¥2,100(予約)/¥2,600(当日) ※別途ドリンク代

場所:新橋ZZ 

   東京都港区新橋4-31-6 B1

※電話予約受付中:03-3433-7120(17:00~23:00)


≪著者略歴≫

中村俊夫(なかむら・としお):1954年東京都生まれ。音楽企画制作者/音楽著述家。駒澤大学経営学部卒。音楽雑誌編集者、レコード・ディレクターを経て、90年代からGS、日本ロック、昭和歌謡等のCD復刻制作監修を多数手がける。共著に『みんなGSが好きだった』(主婦と生活社)、『ミカのチャンス・ミーティング』(宝島社)、『日本ロック大系』(白夜書房)、『歌謡曲だよ、人生は』(シンコー・ミュージック)など。

ONE STEP FESTIVAL 永久保存盤 Live, Box set, Original recording remastered 神無月,サンハウス,陳信輝グループ,イエロー,ウエスト・ロード・ブルース・バンド,トランザム,クリス・クリストファーソン&リタ・クーリッジ,沢田研二&井上堯之バンド,ダウン・タウン・ブギウギ・バンド,つのだ☆ひろ&スペース・バンド,ジュリエット,あんぜんBAND ,エディ藩&オリエント・エキスプレス,クリエイション,四人囃子,マザーハウス・ブルースバンド,ジャンボマックス,ソウルパワー,異邦人,南無,外道,センチメンタル・シティ・ロマンス,はちみつぱい,ミッキー吉野グループ,デイヴ平尾&ザ・ゴールデン・カップス,めんたんぴん, 寺田十三夫と信天翁,VSOP,LOVE,上田正樹&サウス・トゥ・サウス,ブルースハウス・ブルースバンド,Grape Jam,宿屋の飯盛,オリジナル・ザ・ディラン,かまやつひろし&オレンジ ,宮下フミオ&フレンズ,加藤和彦&サディスティック・ミカ・バンド,内田裕也&1815ロックンロール・バンド,

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