2015年07月22日

「腰まで泥まみれ」ピート・シーガーと元ちとせの間に流れているもの

執筆者:北杜薫

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今日7月22日は元ちとせのアルバム「平和元年」の発売日。
このアルバムに収められている12曲、すべてが反戦歌だと私は解釈している。
その楽曲達は1940年~1980年代、時代のうねりの中で歌い継がれてきたものばかりのカヴァーである。

今回、この時期に元ちとせが「平和元年」をリリースした事は偶然にせよあまりに絶妙のタイミングだ。
奄美大島・シマ唄の伝承者として育った元ちとせが、その歴史や環境から多くを学び自らの「歌」に反映させて来た事、彼女の作品発表のアーカイブ等照らし合わせ考えると、彼女の「歌うべきスタンス」とタイミングがごく自然にリンクしたものなのかもしれない。
そもそも「平和元年」と言うタイトルが意味するところは何か? 日本が終戦を迎え永遠に戦争放棄した昭和20年を平和元年としているのか? あるいは終戦70周年を迎え、どこかキナ臭い予感に揺れる不安の中、もう一度平和を見つめ直す意味で今年2015年を平和元年と想定しているのだろうか?
奄美大島は終戦から8年間、アメリカの 統治下にあった。島の先人達は沖縄と同様ドルを使い、島を出て本土に渡る時はパスポート所持を義務づけられていた。
元ちとせは島の歴史をその先人達から聞かされ育っていた。
奄美大島のシマ唄を紐解けば、戦前戦中戦後も枠に捉われる事なく自由な歌詞が生まれていた事に驚かされる。
元来、古語だけで歌われている伝統的なものだけがシマ唄や民謡であると私は誤解していた。
しかし奄美のシマ唄を調べてみると「グラマン戦闘機が飛んできた」「マッカーサーがこの国にやってきた」などと歌詞の中で歌われているものがある。時代や生活、地域に密着しているのである。古くは貧困さ故、売られて行く娘の話やはたまた豊作を祝う祭りの歌も当然存在する。そこに暮らす人達の日常や思い、まさにそこにある現実が歌われているのだ。


2003年、奄美大島本土復帰50周年の時、天皇皇后両陛下がこの島の式典に訪れ、その時、元ちとせは両陛下の前で「くるだんど節」を披露した。奄美の多くのシマ唄がそうであるようにこの歌にも幾種類かの歌詞が存在、それにともないそれぞれの解釈が存在している。一般的には干ばつを憂いて雨乞いをすると空が黒ずんで来たと言う祈りの歌だが、なかには「くるだんど」=「苦しんだ」と異説を唱える人もいるらしい。その昔琉球に、そして薩摩に支配され、太平洋戦争と言う苦難の道を乗り越えて来た島民達。そんな長い歴史を思い起こせば、この唄はあの「復帰の式典」の日に歌う希望の歌としてふさわしかったと思う。
また2005年、終戦60周年に当たるこの年の8月6日(広島原爆投下の日)、元ちとせは坂本龍一とともに広島原爆ドーム前でゲリラ的にパフォーマンスを行っている。この時、パフォーマンスされた楽曲は原爆の炎に焼かれ死んで行った少女の事を歌った「死んだ女の子」(作詞:ナジム・ヒクメット 訳詞:中本信幸 作曲:外山雄三)だ。この模様は筑紫哲也「NEWS 23」でLIVE放送された。そして同年11月にはシングル「語り継ぐこと」をリリースしている。あれから10年、2015年終戦70周年に当たるこの夏、元ちとせがアルバム「平和元年」をリリースしたのだ。そんな彼女が寄り添ってきたシマ唄やこれまでの作品の背景を知る事によってこのアルバム「平和元年」のリリースは大いに頷ける。


そのアルバムからの表題曲が「腰まで泥まみれ」〜Waist Deep In The Big Muddy〜である。作者であるプロテスト・ソングのパイオニア、ピート・シーガーは朝鮮戦争中に起こったリボン・クリーク事件をヒントにこの曲を書いている。それは小隊がサウス・カロライナ・バリス島での軍事訓練中、迷い込んだリボン・クリーク湿地帯を行軍、教官は引き返す事なく行進を命じ、その判断ミスにより6人の新人隊員を溺死させた事件だ。ピート・シーガーはこの事件を 寓話化し1967年に発表したのが「腰まで泥まみれ」である(彼は原曲でこのリーダーの事を「the big fool」と切り捨てている。当時、この歌詞に登場するリーダー=隊長はベトナム戦争へ突き進む米国ジョンソン大統領を見立てていると言う論争を巻き起こした)。その歌詞から読み取れる主張は「軍であれ、国であれ間違ったリーダーに『進め』と言われても『引き返せる』と言う理性と勇気を持とう」と言うものだ。


原曲発表から48年。時を経ても歌い継がれるこの曲「腰まで泥まみれ」は実に新鮮に辛辣に響く。
この曲の歌詞で歌われている通り「これを聴いて何を思うかはあなたの自由」だ。
中川五郎訳詞のこの歌詞は直訳に近いがまさに今の時代を射る。それは言霊となって元ちとせの声に乗り今の時代に鋭く突き刺さる。


追記:このアルバム「平和元年」の題字を手掛けているのはなんと吉永小百合である!!

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