2017年05月29日
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2017年05月29日
本日5月29日は、第35代アメリカ合衆国大統領だったジョン・F・ケネディの誕生日である(1917年、マサチューセッツ州の出身)。多くの方がご存知のように、彼は在任中の1963年11月22日に遊説先のテキサス州ダラスでパレードの最中に銃撃され死亡した。現職のアメリカ大統領が暗殺されるという大事件は、当時世界中を駆けめぐり、我が国においても、ちょうど日米間での衛星中継実験にはじめて成功したタイミングだったこともあり、そのニュースを報じたリアルタイムの映像に多くの国民がテレビに釘付けになったのだった。
全米中を大きな衝撃と深い悲しみで包み込んだこの事件は、音楽シーンにも影響を与えた。クリスマスまであと一ヶ月という時期だったこともあり、クリスマス関連のレコードは軒並み売り上げを落としたが、なかでもケネディが暗殺された当日の11月22日に発売されたフィル・スペクターのアルバム『クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター』は、60年代のアメリカン・ポップ・シーンを代表する売れっ子プロデューサーによる最高傑作だったにもかかわらず、世の中の自粛の波にのみ込まれる形で、ヒットを逃してしまう。
そんなケネディとスペクターとの不思議な因縁は、実はもうひとつある。スペクターとはパリス・シスターズやクリスタルズの作品で一緒に仕事をしたことのある西海岸のアレンジャー、ハンク・レヴィンが63年前半に『シング・アロング・ウィズ・JFK』というアルバムを制作してリプリーズ・レコードから発売しているのだ。
この企画盤は、61年1月20日の大統領就任式で行なったケネディの名スピーチの音声をたくみに編集し、そこに演奏やコーラスをかぶせてレコードにしたもので、まるで本人とコーラスが掛けあっているかのような絶妙な仕上がりが話題となったが、ケネディの死後には貴重な肉声が聴けるレコードとしてますます注目が集まり、我が国でも、ケネディ大統領を偲ぶ追悼盤として、64年初頭に4曲入りコンパクト盤『ケネディと歌おう』と、シングル「自由の讃歌(Let Us Begin Beguine)」が発売された。
アルバムを代表するトラックとなった「自由の讃歌」(最初の邦題は「星影のビギン」だったが、追悼盤として発売される際に変更された)は、演説中に何度も繰り返された“トゥゲザー”というフレーズと、女性コーラスを配したカレッジ・ポップス調のサウンドとが融合したキャッチーな仕上がりが評判を呼び、80年代にはビールのCMに、2000年代には携帯電話のCMに使用されるなど、我々日本人の間で長く親しまれ続けている作品となっている。ちなみに、原題の「Let Us Begin Beguine」は、ケネディが演説の締めくくりに述べた“Let us begin(始めよう)”と、コール・ポーターの名曲「Begin The Beguine」を掛けあわせたもの。
また、『シング・アロング・ウィズ・JFK』で試みられた、既存の音源の一部を引用して再構築することで新たな作品を生みだす手法は、現代のサンプリングに通じるものでもあり、それゆえに、このレコードこそが“サンプリングの元祖”ともいわれているのだ。
トランプ大統領が自身の発言をツイッターで発信する昨今、いまから56年前にケネディ大統領が“肉声”で伝えようとした熱いメッセージの一端を、あらためてレコードから感じ取ってみてはいかがだろうか。
≪著者略歴≫
木村ユタカ(きむら・ゆたか):音楽ライター。レコード店のバイヤーを経てフリーに。オールディーズ・ポップスを中心に、音楽誌やCDのライナーに寄稿。著書に『ジャパニーズ・シティ・ポップ』『ナイアガラに愛をこめて』『俺たちの1000枚』など。ブログ「木村ユタカのOldies日和」もマイペース更新中。
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