2017年05月31日
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2017年05月31日
ピーター・ポール&マリーといえば、多くの人たちにとっては1960年代と密接に結びついているのではないだろうか。1961年にピーター・ヤーロウ、ノエル・ポール・ストゥーキー、マリー・トラヴァースの三人で結成されたピーター・ポール&マリーは、1970年に解散するまで「レモン・トゥリー」、「500マイル」、「悲惨な戦争」、「花はどこへ行った」、「風に吹かれて」、「パフ」、「天使のハンマー」などを歌って大ヒットさせ、当時アメリカから世界に向けて広がっていったモダン・フォーク・リバイバル、モダン・コーラス・グループ・ブームの先頭に立って大活躍した。もちろん日本でもピーター・ポール&マリーの人気は爆発し、彼らのコーラス・ハーモニーやギターのアンサンブルをコピーして英語で歌う人たちが続出した。それがやがては1960年代後半、日本語で歌われる日本のフォーク・ソングの誕生にも繋がっていった。
ピーター・ポール&マリーは1978年に原発反対運動支援のコンサートに参加するために再結成され、60年代とは異なるゆったりとしたペースで活動を再開したが、2005年にマリーが病いに倒れ、三人でステージに立ち続けることが叶わなくなってしまった。再結成してからの期間の方が圧倒的に長いものの、その活動の濃密さや人気の高さということで言えば、やはりピーター・ポール&マリーは圧倒的に1960年代を象徴する存在なのだ。
換言すれば、ピーター・ポール&マリーは1960年代という時代の枠の中にしっかりと嵌められてしまい、それがあまりにも輝かしいゆえに、その後、彼らが何をしても熱心なファン以外にはあまり注目されず、ピーター・ポール&マリーといえば1960年代と、その思い出や過去だけが懐かしさとともに追いかけられているような気がする。
残念なことにマリー・トラヴァースは2009年9月16日に72歳でこの世を去ってしまったが、残されたピーターとポールは2010年代後半の今も歌い続けている。ピーターは今年の5月31日で79歳、ポールは今年の12月30日で80歳になる。
ピーターは音楽活動だけでなく、2000年から「オペレーション・リスペクト」というボランティア活動にも力を入れている。これは子供たち同士のいじめをなくすため、学校やサマーキャンプで使う教材を無料で提供したり、その教材を使って教える指導者を育成するワークショップを行ったりしているものだ。「オペレーション・リスペクト」は、アメリカだけでなく、カナダ、香港、南アフリカ、イスラエル、ウクライナ、ベトナム、アルゼンチンなど世界各地でも展開され、一千万人以上の子供たちがその教材で学んでいる。アメリカでは全国の小中学校の3分の1に相当する2万校以上で、その教材が採用されているということだ。
そんなピーター・ヤーロウの55年以上に及ぶ音楽活動の集大成にして、今現在の姿をしっかり確かめられる最新アルバム、それが今から3年半前の2013年11月に発表された『決してあきらめないで/Never Give Up~Inside the Heart of Peter Yarrow』(ワーナー・ミュージック・ジャパン)で、これが何と驚くべきことに日本で制作され、日本だけでリリースされた作品なのだ。
ブックレットに掲載されているピーター・ヤーロウ本人の文章によると、「このたび、プロデューサーの山田廣作さんとワーナーミュージック・ジャパンの石坂敬一会長の依頼により、ダライ・ラマ法王14世の美しい言葉で歌を作る機会を与えられ、光栄に思います」ということで、2013年にピーターが作曲した「決してあきらめないで/Never Give Up」という曲がきっかけとなってプロジェクトが組まれ、そこで作られたのが『決してあきらめないで』というアルバムだ。
収録曲は全部で14曲、ピーター・ポール&マリーのレパートリーとしてお馴染みの「風に吹かれて」、「オール・マイ・トライアルズ」、「ウォーター・イズ・ワイド」、1972年のピーターの最初のソロ・アルバム『Peter』に収められていた「Weave Me The Sunshine」、「美しい街/Beautiful City」、「ヨルダン河/River of Jordan」、「君の仮面を取りなさい/Take Off Your Mask」、「緑の森/Greenwood」、そして「Light One Candle」、「Sweet Survivor」、「Music Speaks Louder Than Words」など70年代後半に再結成された第2期ピーター・ポール&マリーのレパートリー、あるいはピーターが「オペレーション・リスペクト」を始めるきっかけとなった曲「Don’t Laugh at Me」、はたまた市場に売られていく仔牛のことを歌った有名なフォーク・ソング「Dona Dona Dona」にピーターが新しい歌詞をつけた曲などなどが、ピーターの古くからの音楽仲間、ギタリストのポール・プレストピノやベーシストのディック・ニス、ピーターの娘でシンガーのベサニー・ヤーロウ、ベサニーとベサニー&ルーファスというデュオを組んで活躍するチェリストのルーファス・カパドーシャなどと一緒に新たに録音されている。
ピーター・ヤーロウの2013年のこの最新アルバムから浮かび上がってくるのは、1960年代のピーター・ポール&マリーの残像の中に生きるピーターではなく、娘たちの新しい世代と一緒に未来を見つめている社会派フォーク・シンガーのピーターだ。ピーター・ヤーロウといえば、ピーター・ポール&マリー、ピーター・ポール&マリーといえば1960年代ではなく、決してあきらめることのない今を生きるピーターの歌にぜひとも耳を傾けてほしい。
≪著者略歴≫
中川五郎(なかがわ・ごろう):1949年、大阪生まれ。60年代半ばからアメリカのフォーク・ソングの影響を受けて、曲を作ったり歌ったりし始め、68年に「受験生のブルース」や「主婦のブルース」を発表。アルバムに『終わり・始まる』(1969年、URC)、『25年目のおっぱい』(1976年、フィリップス)、『また恋をしてしまったぼく』(1978年、ベルウッド)、『ぼくが死んでこの世を去る日』(2004年、オフノート)、『そしてぼくはひとりになる』(2006年、シールズ・レコード)。著書に『未来への記憶』(話の特集)、『裁判長殿、愛って何』(晶文社)、小説『愛しすぎずにいられない』(マガジンハウス)、『渋谷公園通り』(ケイエスエス出版)、『ロメオ塾』(リトルモア)、訳書に『U2詩集』や『モリッシー詩集』(ともにシンコー・ミュージック)、『詩人と女たち』、『くそったれ!少年時代』、紀行文集『ブコウスキーの酔いどれ紀行』、晩年の日記『死をポケットに入れて』、『ブコウスキー伝』(いずれも河出書房新社)、『ぼくは静かに揺れ動く』、『ミッドナイト・オールデイ』、『パパは家出中』(いずれもアーティスト・ハウス)、『ボブ・ディラン全詩集』(ソフトバンク)などがある。1月25日に最新アルバム「どうぞ裸になって下さい」をコスモス・レコーズからリリース。
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