2017年03月12日
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2017年03月12日
日本のロック史を振り返る時、1980年前後に突如として登場した“めんたいロック”(もしくは“めんたいビート”)なる言葉にぶち当たる。モッズやロッカーズ、ルースターズなど、79年から81年にかけて、続々とデビューした福岡出身のビート・バンドの総称として使用され、実際、その言葉は一般化もした。同名称の起源、いまとなっては曖昧のままだが、博多由来ではなく、東京産まれである。
発案者は諸説あるが、おそらく音楽雑誌『Player』周辺から生まれたのではないだろうか。実際、ルースターズのデビュー時、新宿ルイードでのライブに辛子明太子が出されたこともあった。博多名産の辛子明太子からめんたいロック、マカロニ・ウェスタンのような例えで、安易といえば安易だが、ピリッと辛口という音楽との類似点がないでもない。
いまだにその言葉が生きていて、めんたいロックといえば、ある種のバンドやサウンドが浮かんでくることを考えると、絶妙なネーミングだったのだろう。当然、当人達は、そんな呼称を忌み嫌ってもいた。
そんな福岡のロックの創始者がサンハウスである。昨2016年6月9日に刊行された『博多ROCK外伝』(INSIDEOUT)は西日本新聞の記者である田代俊一郎によって、西日本新聞に連載され、博多のロックを愛するものの間で話題になっていた「九州近代歌謡遺聞 <ロック編>」(2013年10月15日~2015年8月3日。計77回)をベースに加筆修正した博多ロック評伝の決定版。同書にもサンハウスについては記述が多く割かれている。博多のロックの歴史はサンハウスがなければ始まらないし、後にめんたいロックといわれるシーナ&ザ・ロケッツ、モッズ、ロッカーズ、ルースターズなどもサンハウスの存在なくしては語れない。
サンハウス (SONHOUSE) は1970年12月に結成される。バンド名は米国のブルースマン、サンハウスから取られている。結成時のメンバーは菊こと、柴山俊之(Vo)、鮎川誠(G)、篠山哲雄(G)、奈良敏博(B)、浦田賢一(Dr)の5人。中州のディスコや米軍キャンプなどで演奏をしていた。マディ―・ウォーターズやエルモア・ジェームスなどのブルースやリズム&ブルースを始め、ストーンズやヤードバーズ、アニマルズ、ゼムなどのブリティシュ・ビートを演奏していた。翌71年に誕生した中州の側である須崎のライブハウス「ぱわぁはうす」を拠点に、自主コンサートなどを開催していた。
コピーやカヴァーの時代を経て、サンハウスはブルースやブリティシュ・ビートを下敷きにオリジナルに挑む。ブルースなどの根源的な音楽の構造にブルース言語を日本語に置き換え、猥雑ながら耽美な歌世界を作り上げる。
サンハウスは九州だけでなく、74年8月福島県郡山市の開成山公園で行われた、伝説の「郡山ワンステップフェスティバル」に出演するなど、その名を全国に知られるになる。同年には浦田に代わり、鬼平こと、坂田紳一が新しいドラムスとして参加。
1975年6月、テイチク・レコードのブラック・レーベルよりファースト・アルバム『有頂天』をリリース。メジャー・デビューを飾る。日比谷野外音楽堂にてデビュー・ライブを行う。11月、トランザム、中山ラビらと共に、東京を皮切りに北海道、東北~四国、九州まで至る全国規模の「ブラック/ツアー」を展開する。
同1976年6月にセカンド・アルバム『仁輪加』発売。同年4月から6月まで、ゴダイゴ、浜田良美(Charがバッキング)とジョイント・コンサート「ザ・ツアー」で全国を巡る。76年12月、篠山哲雄が脱退。 1977年 、4人編成で九州縦断ツアー。近大工学部(飯塚)の文化祭出演を最後に、鬼平と奈良敏博が脱退。同年12月、新生サンハウス(ギターに坂東嘉秀、ベースに浅田孟、ドラムスに川島一秀が参加した)を結成し、上京する。「ロフト」「屋根裏」などのライブハウスで、パンクな演奏を叩きつけた。
サード・アルバム『ドライヴ・サンハウス』(ライブ・アルバム)の発売と同日の1978年3月25日、解散を決定。解散後、柴山は作詞家としてルースターズやシーナ&ザ・ロケッツ、ARBなどに詞を提供。鮎川は川嶋、浅田にシーナを加えシーナ&ザ・ロケッツを結成した。奈良はEXに参加、松田優作などと共演。ちなみにオリジナル・メンバーの浦田はショット・ガンを結成。役者としても活動し、2003年に公開されたロッカーズの自伝的映画『ROCKERS』では、主人公の父親役を演じた。
解散後、サンハウスは伝説、幻のバンドとなるが、彼らに影響を受け、その志を継ぐ、モッズ、ロッカーズ、ルースターズなどが続々とデビュー。彼らの活躍、躍進とともにその原点、源流として、サンハウスが再注目される。そんな伝説を“めんたいロック”を愛するロック・ファンが追体験するのは解散から5年を経てのこと。1983年、サンハウスは菊、鮎川、奈良、浦田というメンバーで再結成する。同年9月21日に東京・日比谷野外音楽堂で、「SonHOUSE Last Live at Hibiya YA-On "Crazy Diamonds" 」を開催。ARBとルースターズをサポート・アクトにした日比谷野音への凱旋は、往時を知るもの、知らないものを含め、聞くものの心と身体を蹂躙していく。危険な獣が野に放たれた瞬間でもあった。「キング・スネーク・ブルース」や「レモン・ティー」など、お馴染みのナンバーだけでなく、「センテ」や「ステディ・ドライバー・マン」、「ダイナマイト」など、新曲も披露。伝説が伝説に留まらず、現在進行であることを証明した。その模様はライブ・アルバム『クレイジー・ダイヤモンズ<absolutely live>』(『Crazy Diamonds<absolutely live>』)として、1983年11月5日にリリースされている。
その後、サンハウスは1998年、2010年、2015年と、再結成を度々、行っているが、昨年2016年4月7日にも2015年2月14日に急逝したシーナの追悼イベント「シーナの日」に下北沢GARDENで、メンバーは菊、鮎川、奈良、篠山、鬼平というラインナップで再結成。また、2016年3月26日にはライブ・アルバム『タイガーインユアタンク(マディに捧ぐ)』もリリースされている。同作は2015年9月12日、東京・下北沢GARDENで開催された「マディー・ウォーターズ生誕100年祝賀ライブ」でのサンハウス(メンバーは菊、鮎川、奈良、浦田というラインナップ)の演奏を収録。マディー・ウォーターズの曲に柴山俊之が日本語詞をつけ、カヴァーしている。同作を始め、オリジナル・アルバム以外にもライブ盤(『金輪際』2010年7月発売。2010年のレコード・デビュー35周年を記念した再結成ツアー『金輪際』の東京と福岡の公演を収録。CD+DVDの2枚組)やボックス・セット(『THE CLASSICS / SONHOUSE ~35th anniversary~ 』2010年2月発売。CD7枚+DVD1枚の8枚組)など、貴重な音源や映像が豊富に残っている。
そして、この3月8日にはサンハウスが1983年9月23日、日比谷野音で行った再結成公演を収録したライブ・アルバム『クレイジー・ダイヤモンズ<absolutely live>』がリイシューされた。紙ジャケ仕様、最新K2HD PRO MASTERING 、2枚組、全20曲、逆回転処理などがされず、完全収録版としてのリリースである。2008年に一度、完全版がリリースされているが、現在は市中在庫が少なく、高値を呼んでいたため、ファンにとっては待望、垂涎の再発売である。既に30年以上前というのに、いま聞いてもその生々しさ、毒々しさは当時のまま、迫ってくるのだ。
サンハウスだが、鮎川は「今後は特に予定はありませんが、またやれる機会があれば、昨日の続きのような感じでやれたらいいなと思っています」と語る。いまは “昨日の続き”があることを祈り、待つしかないだろう。
実は同アルバムのリイシューは「ビクター・ビンテージ・ロック~日本のロック名作選~」の一環として発売されたもの。“GS、ニュー・ロック~パンク前夜まで、日本のロックの基盤を作ったアーティストの不朽の名作を紙ジャケットで再発”をテーマに“名盤復刻”されている。ザ・ダイナマイツ『ヤング・サウンドR&Bはこれだ!』(1967年)、頭脳警察『頭脳警察セカンド』(1972年)、アイドルワイルド・サウス『KEEP ON TRACKIN'』(1976年)、アナーキー『アナーキー』(1980年)、ARB『BAD NEWS』(1980年)、PANTA&HAL『マラッカ』(1980年)、松田優作『HARDEST NIGHT LIVE』(1981年)、BOΦWY『モラル』(1982年)、佐藤ミツル『ブルーミング・アローン』(1982年)など、いずれも聞き逃せない、日本のロック史に残る名盤ばかりである。是非、この機会に聞いていただきたい。
◆ビクター・ビンテージ・ロック~日本のロック名作選~ トレイラー>
◆SHUNICHIRO TASHIRO 田代俊一郎 博多ROCK外伝>
≪著者略歴≫
市川清師(いちかわ・きよし):『MUSIC STEADY』元編集長。日本のロック・ポップスに30年以上関わる。同編集長を退任後は、音楽のみならず、社会、政治、芸能、風俗、グラビアなど、幅広く活躍。共著、編集に音楽系では『日本ロック大系』(白夜書房)、『エンゼル・ウィズ・スカーフェイス 森山達也 from THE MODS』(JICC)、『MOSTLYMOTOHARU』(ストレンジデイズ)、『風のようにうたが流れていた 小田和正私的音楽史』(宝島社)、『佐野元春 SOUND&VISION1980-2010』(ユーキャン)など。近年、ブログ「Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !」で、『MUSIC STEADY』を再現している。
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