2017年09月07日

1978年の夏、グレイハウンド・バスでたどり着いたバディ・ホリーの生家は更地となっていた

執筆者:宮治淳一

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本日、9月7日はバディ・ホリーの誕生日である。


1971年高校1年生のときに買った『ビートルズ65 (Beatles For Sale)』 の収録曲「ワーズ・オブ・ラヴ」でバディ・ホリーの存在を知った。ご存知の通りこのアルバムは人気絶頂期に制作されたが故にオリジナル曲が少なく、その分彼らが好きなロックンロールの曲のカヴァーが一杯入っていた。解説を書いていたのは木崎義二さんで、カール・パーキンス、チャック・ベリーなどにまざってバディ・ホリーのことに少しだけ触れていた。


ホリーはすでに1959年に死んでいた。そのあとすぐドン・マックリーンが特大ヒット曲「アメリカン・パイ」で私たちの目の前に姿を現した。彼はホリーが死んだ1959年2月3日を「音楽が死んだ日」と規定した。朝妻一郎さんが死んでしまったロック・アーティストのことを書いた本のなかにバディ・ホリーの項目があって、いたく感銘を受けた。だが、その時点で私は一度もホリーを聴いていない。たまたまクラスの友人が“間違えて”買ったバディ・ホリーの日本盤を持っていたので借りてみた。期待は高かったのでそのぶんがっかりした。ジーン・ヴィンセント、エディ・コクランら同時代のロック・スターのなかに入ると鋭さにかけ、またあの甘ったるい声質がどうにもいただけなかった。


大学に入った1975年の年末、この年に知り合った近所のレコード・コレクターに大量のホリーのLPを借りて一日中聴きまくり、見事にホリーに目覚めた。簡単なコンボ演奏のなかに実に多様なスタイルとで芳醇なメロディがある。3、4のコードでこれだけの曲が出来ている事実には驚いた。そしてなによりテキサス産の乾いた素晴らしいアメリカン・ポップスがそこにはあった。ホリーのバンド、クリケッツがビートルズの原型になっている事に合点がいった。早速アメリカにあったバディ・ホリー・ファンクラブに入会した。


1978年夏アメリカ中をグレイハウンド・バスで回ったことがあった。テキサス州エル・パソのレコード・バイヤー宅に泊めてもらったあと、次なる目的地ラボックに向かった。全米でも全く無名のよくある田舎町だ。ある一つの事を除いては。バディ・ホリーの墓参りは渡米前から計画していた。

アメリカに到着してすぐにカリフォルニアのバークリーの映画館で封切り直後の『バディ・ホリー物語』を観た。そこにはホリーの家の車庫でバンド練習するシーンが出てきた。これは是が非でもラボックにいかなければいけない。ホリーはラボックで生まれ21歳のとき飛行機事故で死亡、この街の墓地に埋葬されていた。

バス・ステーションに着くと地図を買い歩いて市営墓地に向かった。街は小さい。ところが運悪く日曜日で閉まっている。それならと彼が住んでいた家に向かった。6丁目通り1911番地を目指す。なんと、その地は完璧な更地となっていた。がっかり。ほんとうにここにホリーの家が建っていたのか・・・。

持参したイギリスで出版されたホリーのペーパーバックで彼の家の写真を見てみる。おお、空地に生えている巨木の枝の形が一緒じゃないか、やった! 小躍りして記念撮影をしていると何やら視線を感じた。隣の平屋の窓から怪訝な顔をして黒人の小学生の女の子がじっと私を見ている。とっさに自分が怪しいもではないと弁解すべく、ここがあのレイト・グレイト・バディ・ホリーの生家だということを知らないのかと聞いた。女の子はさらにきょとんとしていた。彼女はバディ・ホリーそのものを知らないようだった。


考えてみれば、日本の田舎町の空地に突然黒人青年がやってきてここが伝説の浪曲師の生地であると言って写真を撮っているようなもんだ。無理もない。またいつかこの空地に行ってみたい。「バディ・ホリー記念館」なんかが出来ていないといいのだが。


≪著者略歴≫

宮治淳一(みやじ・じゅんいち):1955年茅ケ崎市産まれ。小学生時代からビートルズ、ヴェンチャーズなど、英米のロックンロールにはまる。
現在世の洋楽のカタログCD商品の編成、ラジオでのDJ、選曲を手がける。
自宅を改造し、音楽資料館「ブランディン」として、収集した膨大なレコード、音楽書籍を一般に開放している。
信条は「レコードはかけなきゃ音が出ない」。
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