2017年09月24日

[recommend]豊穣なる闇のバラッド/中川敬

執筆者:オオクマリョウ(魂花時報)

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ソウル・フラワー・ユニオンのフロントマン、中川敬のアコースティック・アルバムが10月4日にリリースされる。定期的な大都市ツアーや大規模ロックフェス出演など、ソウル・フラワー・ユニオンの充実した活動の合間に、ギター1本を抱えた弾き語りツアーと並行してじっくりと編み上げた、通算4枚目のソロ作だ。


ソウル・フラワー・ユニオンでは、ファンクやレゲエ、トラッド・ミュージックなど土着のグルーヴを貪欲に取り込んだ音楽性と、フロアをたちまちダンスの渦に巻き込む祝祭的なライヴの評価が高い。その中心人物である中川敬は、前身バンドのニューエスト・モデル時代から数えると30年以上も第一線に立ち続けているわけだが、ソロ活動となると、実はまだスタートしたばかりといってもいい。


前世紀末に「ソウルシャリスト・エスケイプ」名義のソロ・プロジェクトはあったものの、一人で作り上げた個人名義のアコースティック・アルバムは、2011年6月リリースの『街道筋の着地しないブルース』が初作品。大所帯のソウル・フラワー・ユニオンでは回れない地方在住ファンの渇望が日増しに高まっていたことなどから、津々浦々に唄を届けるべく、2015年1月、ギター1本の弾き語りをスタート。以降、「大型新人フォーク歌手」を自称しながら、北海道から沖縄まで年間数十本ものライヴを自らブッキングして回り、現在に至っている。


そうしたなかで届いた2年ぶりの新作、タイトルは『豊穣なる闇のバラッド』。セルフ・カヴァーを含む新録のオリジナル曲に加え、野坂昭如の「黒の舟唄」、オリジナル・ラブの「接吻」のカヴァーを収録した本作は、過去3作のアコースティック・アルバムと比べてシンプルな印象が際立った。


風通しの良い弦楽器の響きに乗せた詩に盛り込んだのは、国会前抗議に立つ名もなき人々、被差別当事者の古い友人、シングルマザーとその子どもたち、第二次世界大戦中に強制収容された在米日系移民、シリア難民の命懸けの脱出行、沖縄戦を生き延びた老女、少年受刑者など。重い事実を一貫した視座で綴った14編のバラッド(叙事詩)が、人間の尊厳を静かに問いかける。


藤井一彦(ザ・グルーヴァーズ)、佐藤タイジ(シアターブルック)、小暮晋也(ヒックスヴィル/オリジナル・ラブ)、河村博司(ソウル・フラワー・モノノケ・サミット)、高木克(ソウル・フラワー・ユニオン)ら手練れの名手が要所に参加し、繊細な響きで深い奥行きを与えているのも聴きどころの一つだ。


ドブ板を踏むような地方巡業の成果を十分に発揮した、滋味掬すべき全14曲。是非手に取っていただきたい。ライヴにも是非足を運んでいただきたい。


豊穣なる闇のバラッド 中川敬

街道筋の着地しないブルース 中川敬

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