2018年03月27日
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2018年03月27日
僕が松本孝弘というギタリストの存在を知ったのは1986年頃、渋谷の小さなライブハウスで見た、ベーシスト鳴瀬喜博が率いる “うるさくてゴメンねBAND” のステージだった。テクニカルであると同時に70年代洋楽ハードロックのテイストが感じられる演奏に、強く魅せられたのを今でも鮮明に覚えている。さらに彼が僕とほぼ同世代で、しかもピンポイントな同郷だったことがわかり、親近感を持った。
その後、彼は88年にB'zとしてデビューし、ジャパニーズ・ロックの超大物としてヒット・チャートを席巻していく。僕はといえば90年代半ばから音楽ライターの仕事を始めたのだが、担当する主なジャンルはフュージョン/ジャズ。したがって、B'zの音楽とは縁がなかった。しかし、彼のソロ・ワークには70年代ハードロック、フュージョン、さらには70年代邦楽といった彼のルーツ的な側面が多々あり、そのあたりのレヴューは担当することができた。『Thousand Wave』(88年)、『Rock’n Roll Standard Club』(96年)、『THE HIT PARADE』(03年)などを聴いていると当時まだ面識のない彼と酒でも飲みながら好きな音楽の話をしているかのような気持ちになって嬉しかったものだ。
そして大事件が起こる。ラリー・カールトンとの双頭名義のアルバム『TAKE YOUR PICK』(!0年作品)のリリースである。しかも、このアルバムが翌年の第53回グラミー賞で “最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム” を受賞したのだから驚きだ。この辺りから僕の仕事のジャンルとも接点が芽生えたわけで、『New Horizon』(14年作品)や『enigma』(16年作品)では、ついにインタビューやライヴ・レポートをさせて頂く機会にも恵まれた。
昨年11月にリリースされたB'zとして20枚目のアルバム『DINASAUR』、そしてそのアルバムを携えて今年の2月まで行われた全国8カ所18公演に及んだドーム・ツアーの大成功。そんなB'zのリーダ-/ギタリストとしての彼の業績や魅力については、今更僕が述べるまでもないだろう。そんな風に思う天邪鬼な僕は、B'zの松本孝弘とはまたひと味違う、Tak Matsumoto というソロ・アーティストのちょっとサブカルチャー的でクールな世界が好きなのだ。ロック・テイストのインストはもちろん、胡弓との共演を含むオリエンタルなインスト、東京都交響楽団とのコラボレーション、映画音楽のカバー等々、彼はギターという楽器の様々な可能性を日々追究してきた。それがグラミー賞の受賞につながったのだろう。また、1999年にはギブソン社から、世界で5人目、日本人としては初のレスポール・シグネチュア・アーティストにも選ばれた。これら世界的な評価によりロック・ファンのみならずスムースジャズ/フュージョン・ファンの間においても注目を集め、今彼はアメリカにおいて最も有名な日本人ギタリストの一人なのである。
さて、ラリー・カールトンと共演してからの彼の演奏を聴いて感じるのは、丁寧なフレージングによる歌心を込めたプレイであること。最後に、インタビューした際の彼の印象的な言葉を添えておこう。
「テクニックを否定するのではありませんが、たくさん音を詰め込んだり複雑なフレーズを弾かなくても、1つのトーンで聴く人の心に響く演奏が出来れば最高だと思うのです。最近は、そういうところに音楽の良さを感じるようになってきました。だから僕は “上手いプレイヤー” ではなく、“良いプレイヤー” と呼ばれたいですね」
ルーツをリスペクトしながら自らの音楽性を高めていく彼の音楽に取り組む姿勢は、B’zを通らずに彼に辿り着いた、そんな新たなリスナーにも好意的に受け入れらているに違いない。
≪著者略歴≫
近藤正義(こんどう・まさよし):音楽ライター/評論家。フュージョン、ジャズ、ロック、ソウル、ポップス、クラシックとオール・ジャンルに対応。音楽誌ではギター・マガジン、レコードコレクターズ、ジャズジャパン、intoxicateなどに寄稿。その他、レコード会社/アーティスト事務所の配信記事、CD/DVDのライナー、コンサート・パンフレット制作、航空機内/音楽番組の選曲など。主な著書は「林哲司全仕事」「鈴木茂自伝」「プロ・ギタリストが語る、僕の好きなギター・ヒーロー100」「僕らが恋した伝説のギターたち」(共著を含む)
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