2018年07月12日

オフコース最後のアルバムとして発表された『I LOVE YOU』~タイトルに秘められたメッセージ

執筆者:前田祥丈

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1982年7月12日、オフコースの『I LOVE YOU』がオリコン・アルバム・チャートの1位を獲得した。


1970年にレコードデビューしたオフコースが本格的にブレイクしたのは「さよなら」がヒットした1980年のことだから、けっこう遅咲きだった。しかも大ヒットした「さよなら」も、ヒットチャートの最高位は2位だった。実はオフコースにはヒットチャート1位を獲得したシングル曲は1枚も無い。アルバムでも1位を獲得したのは80年11月に発表された『We are』が初めてだった。


オフコースは、ブレイクして間もなく、大きな転機に直面する。ヒットアルバム『We are』を引っ提げておこなわれた全国ツアーの最中、鈴木康博が小田和正にグループ脱退の意思を告げたのだ。


もちろん、当時、そんなことは外部にいる人間に知る由も無かった。確かに小田と鈴木のデュオチームだったオフコースが、松尾一彦、清水仁、大間ジローが加わった5人編成のバンドとなってゆく過程で、メンバー間のバランスが変わりつつあること、はっきり言えば鈴木の存在感が後退したように感じていたのは事実だ。


しかし、その変化は必ずしもネガティブなこととしてではなく、大きくサウンドの幅を広げつつあるオフコースのひとつのステップとして受け止める人の方が多かったと思う。なにしろ、世間的に見れば、オフコースはブレイクしたばかりなのだから。


小田和正は、鈴木康博が脱退するならオフコースを解散させようと考えたという。そして、<We are> のツアー終了後、最後になるはずだったアルバムのレコーディングに入る。81年12月に発表されたこのアルバムタイトルは『over』とつけられた。


今から見れば、『We are』『over』と続くタイトルが意味していることは明らかだ。けれど、『over』は『We are』に続く待望のアルバムとして大ヒットしたものの、この隠されたメッセージが話題となることもなかった。オフコースが解散寸前の状態にあると想像する者も居なかった。


オフコースサイドも、この盛り上がりには影響を受けていたのだろう。『over』をラストアルバムとするのではなく、前代未聞の武道館10日間公演(1982年6月15~30日)で締めくくられるツアー終了の翌日、7月1日に解散を発表、同時にラストアルバムをリリースすることとなった。1月にスタートしたツアーの合間にレコーディングが進められた。『We are』以降のミキシングは、ロサンゼルス在住のエンジニア、ビル・シュネーが手がけていたが、ツアー中のためミキシングのためにロスに行く時間が無く、彼を東京に呼んで作業は行われた。


この解散計画は、外部に漏れないように厳重な箝口令がひかれていたが、どこから嗅ぎつけたのか、ツアーの途中でマスコミに“解散説”が流れはじめた。しかし、大規模ツアーの最中でもあり、ファンに動揺が広がるのを避けるため、彼らは解散については沈黙を守り続けた。結局、ツアー最終日の翌日7月1日になっても解散宣言は行われないまま、ニューアルバム『I LOVE YOU』だけが発表された。


オフコースのニューアルバムとして受けとめられた『I LOVE YOU』は、前作に続いてチャート1位を獲得した。しかし、改めて聴いてみると、とてもブレイク中のアーティストの作品とは思えない、内省的でメランコリックな空気感が伝わってくる。そして、それぞれの楽曲には、小田、鈴木の精一杯の想いが託されていたこともわかる。アルバムタイトルの『I LOVE YOU』という言葉は、“We are over I LOVE YOU”というメッセージを完結させる言葉として、とても重いものだったということも。


当時、僕はこのメッセージはリスナーに向けられたものだと思っていた。けれど、今思えば、それは小田と鈴木がお互いに向けたラストメッセージでもあったのだろう。


その後、鈴木康博がグループを離れることは発表されたが、オフコース自体の動静は明らかにされず、“We are over I LOVE YOU”というメッセージだけを残して、彼らは約2年間の活動休止に入っていった。


≪著者略歴≫

前田祥丈(まえだ・よしたけ):73年、風都市に参加。音楽スタッフを経て、編集者、ライター・インタビュアーとなる。音楽専門誌をはじめ、一般誌、単行本など、さまざまな出版物の制作・執筆を手掛けている。編著として『音楽王・細野晴臣物語』『YMO BOOK』『60年代フォークの時代』『ニューミュージックの時代』『明日の太鼓打ち』『今語る あの時 あの歌 きたやまおさむ』『エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る』など多数。

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