2019年07月19日
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2019年07月19日
「音楽映画はヒットしない」というジンクスを軽く吹き飛ばし、歴史的といえる成功を収めた『ボヘミアン・ラプソディ』。ロードショーはすでに終了したものの、あの熱狂は未だ覚めておらずソフトの売れ行きも好調、新たな上映イベントも続いているようだ。
クイーンといえばフレディ・マーキュリーの圧倒的な存在感に目を奪われがちだが、あの緻密かつ繊細、そして大胆さも兼ね備えたサウンドの要となるのがバンド唯一のギタリスト、ブライアン・メイである。本日、7月19日に72歳の誕生日を迎えた彼は、60年代に音楽活動を本格化させながらも決して勉学を疎かにせず、天文物理学の博士号も持つという異色のミュージシャンである。
1947年7月19日、ブライアンはミドルセックス州のハンプトンで英国軍技師だったハロルド・メイの息子として生まれた。父ハロルドは第二次世界大戦の勃発でミュージシャンになる夢を諦めざるをえなかったこともあり、ブライアンの音楽への関心をエンジニアとしてサポート、アコースティック・ギターの電化に始まり、遂にはブライアンが欲しくても買えないエレクトリック・ギターの自作を勧めるに至っている。もちろん父は100年以上使われた暖炉の木を知人から譲り受けるなどそれを全面的にサポート。当時ブライアンが憧れていたのは英国初のギター・ヒーローとなったシャドウズのハンク・マーヴィンで、中でも自身の名を冠した特製ギター、バーンズ社の〈マーヴィン〉の音こそがブライアンの目標だったという。〈レッド・スペシャル〉と名付けられた自作のギターにも試行錯誤の末、〈マーヴィン〉と同じピックアップが取り付けられたが、より太い音を目指し自らコイルを巻き直し、さらなる強化を図っている。
そうやって理想のギターを手にしたブライアンだったが、英国ではエリック・クラプトンを擁したヤードバーズがギター・バンドの花形として君臨、クラプトン脱退後もジェフ・ベックの加入でよりトリッキーなプレイが注目を集めていく。そんな中、クラプトンはジャック・ブルースとピーター“ジンジャー”ベイカーとともにスーパー・トリオ、クリームを結成、米国からは一人のギタリストが英国をさらなるパニックに陥れる。ジミ・ヘンドリックスの登場である。彼らはブライアンに多大な影響を与えたが、この時期ブライアンはケンジントンのインペリアル・カレッジに入学し物理学を専攻しており、そこに彼の極めて冷静な一面を見ることができる。
その後、ハンプトン・グラマー・スクール時代の友人ティム・スタッフェルらと初の本格的なバンド〈1984〉で活動を続けながらも限界を感じたブライアンは、学内の掲示板に「求む:ミッチ・ミッチェル/ジンジャー・ベイカー・タイプのドラマー」とメンバーの募集告知を貼り出す。それを見てコンタクトを取ってきたのが当時リアクションのメンバーとして活動していたロジャー・テイラーで、それまでにない腕利きドラマーとの出会いによりブライアンは念願のトリオを結成、スマイルと名付けられたこのバンドは一気に活動を本格化させていく。しかし、そんな状況においてもブライアンは冷静さを失うことなく物理学の学位を取得、大学院へと進学し天文学の研究に勤しむのである。
スマイルはルー・レイズナーに見初められ米国でレコード・デビューを果たすも不発、ティム・スタッフェルは自身のバンド、ハンピー・ボンク結成のためスマイルを脱退する。しかし、その代わりとして彼がバンドに紹介したのが友人のフレディ・マーキュリーで、彼はよく教室でジミ・ヘンドリックスの物まねを披露していたという根っからのパフォーマーであり、ブライアンとは対照的な人物だった。その後ジョン・ディーコンが加わり遂にクイーンが結成されるが、その後の成功物語は皆さんが映画でご覧いただいた通りだ。面白いのはクイーン結成後もブライアンはしばらくの間、中学校の教師として教鞭を執っていたことで、そんな極めて理性的でかつ冷静なブライアンがいたからこそ、あの緻密なクイーンのサウンドが生まれたのだろう。その後ブライアンは2007年に天文物理学の研究を再開し博士号を取得、現在は動物愛護活動も積極的に行っている。このように、ブライアンはポップ・ミュージックの世界でも本物の〈知性〉を擁した稀有な存在なのである。
≪著者略歴≫
犬伏功(いぬぶし・いさお):67年大阪生まれ。音楽文筆家/グラフィック・デザイナー。60年代英国ポップ・ミュージックを中心に雑誌・ライナーノーツなど幅広く執筆、リイシュー監修等も積極的に行っている。地元大阪では音楽トークイベント『犬伏功のMusic Linernotes』も隔月開催している 。
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