2015年06月16日

Charの60歳の誕生日

執筆者:片岡たまき

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6月16日、今日はCharの60歳の誕生日。
6歳からクラシックピアノを習い、8才でギターを手に取り、16歳ですでにスタジオミュージシャンとして活躍をしていたというChar。早熟の極みに、え? やっと還暦? と思うほどその歴史は長い。
還暦おめでとうございます。


これは忌野清志郎に聞いた話。
清志郎が、ベーシスト藤井裕(ex上田正樹とサウス・トゥ・サウス、etc, )のソロアルバム『フジー・ユー』のプロデュースをした時のこと。私はある企画でインタビューをした。
初のソロ、裕さんの自主制作、ということで、全員が手弁当で参加。豪華ゲスト陣のひとり、Charはマネージャーもギターテックも連れず、清志郎のプライベートスタジオ『ロッ研』にひとりでやって来た。それも新品のギター弦を自ら買ってきて。
まずはレコーディングのために自分で弦を張り替えていた。新品の弦は、チューニングの前に伸ばさずに張ると弦が伸びてしまう。が、Charはその作業をとばして、しかも逆に巻いていたので、すぐ緩んできちゃったんだ、と、清志郎はクスクス笑いながら言っていた。
「あの、悪いんですけど。逆ですよ」
清志郎が指摘すると、
「あ、ホントだ!オレ、弦の張り替えなんて長いこと自分でやってないからさ」
Charは笑っていたという。
どうやら、エフェクターも清志郎が貸してあげたらしい。
「テキトーなの使ってたよ(笑)。オレもよくわからないからさ。今時だれも使わないようなやつ」
と、またまたクスクス笑っていた。
しかし、当然だけどそのあと、清志郎も裕さんも、
「こういうドライなCharは聴いた事ないよね」
「サスガ!素晴らしい!」
と、Charのプレイに大絶賛だった。


今から27年前の1988年、Charの誕生日。
Charとそのブレーンは「江戸屋レコード」というインディペンデント・レコード会社を立ち上げ、設立第一弾のソロ・アルバム『PSYCHE』をリリースした。業界に独立系とかインディーズとかの呼び名すらない時代に、彼らはどのような発想を凝らしたのだろう。


80年代前半、銀座にあったレコーディングスタジオ「Smoky Studio」をホームグラウンドとしていたCharは、ただただ音源を録りためていた。リリースも決めずに録音が自由にできるという緩やかで豊かな状況。そのたまっていく音源をどう世に出すかを考え始めた頃だった。ピザのデリバリーが日本で流行り出したちょうどその頃。Charは、「電話一本でウチにレコードが届くと面白いんじゃない?」と言ったという。電話一本のシンプルさをレコード販売方法と結びつけた彼の発想。そして、これも当時始まったばかりの「宅配便の代引き」に着目し、ヤマト運輸と契約。まずは「EDOYA HOME DELIVARY SERVICE」が開始された。


当時は、今みたいにクリックひとつで音源が買えるなんてことは影も形もない。大手レコード会社の制作した盤が我々の手に届くまでに、幾多の人々や流通組織が関わっている。「江戸屋レコード」は、まるで産直野菜のように、作り手と買い手の間を極々シンプルに、自らが立ち上げたレコード会社ですべてを一から始めた。スタッフは委託販売から次第に全国へ、独自で販売ルートを確立。Charは、あくまでも東京から発信すること、「東京ローカル」にこだわり、また、江戸時代に華開いた数々の日本文化を尊び想い、社名を「江戸屋」とした。
もうひとつ。それより遡って、今から36年前の1979年7月14日。日比谷野外音楽堂において、ジョニー、ルイス&チャーによる「ノーチケット、ノーギャラ、ノーペイメント」という異例のフリー・ライブ「Free Spirit」が行なわれた。野音始まって以来の動員記録14000人というムーブメントを仕掛けたのも彼が最初である。
身を置く環境を作ることも、どう表現するかということも、ロックだ。


時代は変わって2009年、Charは戸越銀座の実家に、配信専門レーベル「ZICCA RECORDS」を立ち上げた。
実家の地下はプライベートスタジオ。


不思議な人だと思う。これは私だけの想像だけれど、なにやら生活テリトリーの心地よい狭さを作り出すことと、音楽活動のフィールドの広さや深さが混在している。安心の上の大胆さ。幼い頃に出会って一生を決めた音楽と、自分のその時代をとても大切にキープし続けるChar。私は、そこに静かな時間が流れるのを感じる。「東京ローカル」も感じる。


いつだったか、わりとここ最近、下北沢の風知空知という呑み屋で打ち上げがあった。ソファでメチャくつろいでいたCharが、さて帰るかと脱ぎ捨ててあったシューズを手にした時に、彼の真っ白い綿の靴下が目に留った。ロックミュージシャンの靴下などカラフルな柄物ばかりしか知らなかった私は、思わず口にしてしまった。
「靴下、白なんですね!」
Charは間入れず答えたのだ。
「靴下は、基本、白でしょ」と。
「基本」と言ったそのフレーズと、東京ローカル、地元戸越銀座。なぜか重なるのだ。今もまぶしかった白を覚えている。

Char

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