2018年09月25日
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2018年09月25日
1955年6月16日生まれ。東京出身。齢63を過ぎても、ロック・スター、ギター・ヒーローとしての容貌と貫禄を維持し、数多の称賛と尊敬を集めるCharこと、竹中尚人。昨2017年には『ギターマガジン』誌による、プロ・ギタリストを中心とした音楽関係者へのアンケート投票「ニッポンの偉大なギタリスト100」で、1位に選ばれた。42年前の今日、1976 年9月25日に記念すべきファースト・アルバム『Char』がリリースされている。デビューは同年6月25日にリリースされたシングル「NAVY BLUE」(B面は「SHININ’ YOU,SHININ’DAY」)だった。
改めて、Charのデビュー時の日本のロック事情を大雑把(なので、よけいな突っ込みはしないこと!)におさらいしておく。ロックは日本語で歌うべきか、英語で歌うべきか――はっぴいえんど(一派!?)と内田裕也(一派!?)が対立、“日本語ロック論争”などを経て、1974年7月に福島県・郡山で“日本のウッドストック”と呼ばれる『ワンステップ・フェスティバル』が開催される。日本のロックは新たな時代に入り、多様化をしつつあった。『ワンステップ・フェスティバル』前後に同フェスへ出演した四人囃子やクリエーション、シュガーベイブ、めんたんぴん、ウエスト・ロード・ブルース・バンド、上田正樹&サウス・トゥ・サウス、サンハウス、外道…など、数多くのバンドのデビュー・ラッシュが続く。
Charは中学、高校時代からスタジオやライヴなどで活躍。いまでいう“天才ギター少年”状態だが、1972年、17歳の時にShockを結成。 並行してBad Sceneにも参加。ともにプロ・デビューの話も出たが、レコーディング中にメンバーの音楽的指向性の相違から解散。 1973年、Bad Sceneの鳴瀬喜博(B)、Shockの佐藤準(Kb)、藤井章司(Dr)、そして、金子マリ(Vo)とともに新たなバンド、スモーキー・メディスンを結成。ライヴやイヴェントなどで活躍、『ワンステップ・フェスティバル』にも出演予定だったが、その直前に解散してしまう。鳴瀬、金子、藤井は、金子マリ&バックスバニーを結成している。
彼自身は当時、隆盛を極めたNSPや山崎ハコ、浜田良美など、フォーク、ニューミュージック系グループのレコーディングやライヴでのバッキング、また、楽器メーカー主催のギター・クリニックなどで活躍。いずれにしろ、デビュー前にして、東京の音楽ファンの間では“品川の戸越銀座(同所は彼の出身地)にCharあり”と言われた。
前述通り、1976年6月25日にシングル「NAVY BLUE」でデビュー。同年9月25日にファースト・アルバム『Char』をリリースしている。同アルバムはキャニオンレコードに新設されたレーベル「see saw」からリリースされた。同レーベルはフリー、フェイセズに参加していたベーシスト、山内テツ、女性シンガーソングライター、絵夢などが所属。後に子供ばんど、ザ・ロッカーズ、TENSAWなども同レーベルからデビューしている。当時はビクター音楽産業の「FLYING DOG」、徳間音工の「BOURBON RECORDS」、トリオ・レコードの「ショーボート」など、日本のロック/フォーク専門のレーベルが登場している。これまでの歌謡曲とは違う、制作や宣伝をするための体制作りが必要だったのだ。
日本のロック史に残る名盤『Char』の背景を語っていく。まず、ネイビー・ブルーに煙る富士山を前に白いスーツに胸を開けたCharが反り返る、こんな色っぽいジャケットはないだろう。ロック・スター然とした佇まいはいまも変わらない。Charは同作を制作するにあたり、アメリカ西海岸へ、理想とするミュージシャンを探す旅に出ている。そうして集まったのは既に日本滞在時に共演経験のあるRobert Brill(ロバート・ブリル)(Dr)、西沢常治こと、George Mastich(ジョージ・マステェチ)(B)、ロスで活動していたJerry Margosian(ジェリー・マーゴーシアン)(Kb、Vo) 、そして、スモーキー・メディスンのメンバーだった佐藤準(Kb) というラインナップ。レコーディングそのものはジョージやロバート、ジェリーなどを日本に呼んで行われている。アルバムそのものは“Char”というバンドのデビュー・アルバムのようでもあった。Charのみならず、ジェリーもソング・ライティングに関わり、彼がヴォーカルを取るナンバーもある。
まずは永遠の名曲「SMOKY」を語らなければならないだろう。いまだ、ライヴなどのハイライト・ナンバーであり、同曲をコピー(したくても難してできないが)に挑んだギター・キッズも多い。驚愕のカッティング、16ビートに乗って、ギターが縦横無尽に駆け巡る。第2期ジェフ・ベック・グループ、同グループのマックス・ミドルトン(Kb)、ボビー・テンチ(Vo、G)、クライブ・チャーマン(B)らが結成したハミングバード、ギター・インストゥルメンタル・アルバム『ブロウ・バイ・ブロウ』、『ワイアード』発表時のジェフ・ベックを彷彿させる、クロスオーヴァ―/フュージョンよりのファンキーなロック・ナンバーだ。
そして「SHININ’ YOU,SHININ’ DAY」。ボズ・スキャッグスの「ロウダウン」がどれほどの曲を生んだかと思わせるAOR、ソフト&メロウの快作だ。スティービー・ワンダーやスティーリー・ダンなどの影響も感じさせる。歌詞も「SMOKY」同様、英語である。ジェリーが作詞・作曲の「IT'S UP TO YOU」、ジェリーが作詞の「I'VE TRIED」も当然、歌詞は英語である。
さらに「NAVY BLUE」、「視線」、「かげろう」、「空模様のかげんが悪くなる前に」、これらすべてはNSPの天野滋が作詞したもの。Charはデビュー前、NSPのレコーディングやライヴに参加。80本近いツアーにもバッキング・ギタリストとして同行している。そんな経緯から彼が詞を書いているが、いい意味でフォーク、ニューミュージック的でもあった。特に「NAVY BLUE」はしっとりとしたマイナー・チューンで、歌詞もそれにそった男女の恋愛模様を描く、“歌謡ロック”といってもいいだろう。「気絶するほど悩ましい」(1977年6月)や「逆光線」(1977年12月)、「闘牛士」(1978年3月)と並べて聞くと、違和感がない。世界標準のロック・バンドを志しながらも日本という土壌を忘れず、この時からこの国で売れるためには何が必要かを考えていたのだろう。後にテレビなどに進出することを含め、当時は歌謡曲という高い壁をどうよじ登るかを模索していたように思える。このアルバムはいまでこそ、名盤として賞賛されるが、リリース時はコアな音楽ファンには浸透したものの、ビッグ・セールスを記録したわけではない。また、リリース時、レーベルメイトの山内テツ&グッド・タイムズ・ロール・バンドと回った全国ツアーも絶賛はされたが、大きな脚光を浴びるには至っていない。“ロック御三家”(Char、原田真二、世良公則&ツイスト)とまで言われ、彼がスーパースター、アイドルとして、時代を席巻するにはもう少し時間がかかった。
『Char』は掛け値なしの名盤だが、同作からはロック過渡期の試行錯誤、葛藤なども伺える。『Char』 は2016年6月、デビュー40周年を記念して、『Char II have a wine』(1977年11月)、『THRILL』(1978年8月)、『U.S.J』(1981年2月)とともにハイレゾ配信、高音質のUHQCD(紙ジャケ仕様)にてリリースされている。是非、そんなことを思い、噛みしめながら聞いてもらいたい。
Char「気絶するほど悩ましい」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
≪著者略歴≫
市川清師(いちかわ・きよし):『MUSIC STEADY』元編集長。日本のロック・ポップスに30年以上関わる。同編集長を退任後は、音楽のみならず、社会、政治、芸能、風俗、グラビアなど、幅広く活躍。共著、編集に音楽系では『日本ロック大系』(白夜書房)、『エンゼル・ウィズ・スカーフェイス 森山達也 from THE MODS』(JICC)、『MOSTLY MOTOHARU』(ストレンジデイズ)、『風のようにうたが流れていた 小田和正私的音楽史』(宝島社)、『佐野元春 SOUND&VISION 1980-2010』(ユーキャン)など。近年、ブログ「Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !」で、『MUSIC STEADY』を再現している。
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