2016年12月31日
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2016年12月31日
作曲家・筒美京平が尾崎紀世彦の「また逢う日まで」(1971年)に続いて2度目のレコード大賞に輝いた曲であることはよく知られているが、プロデュースを担当したCBSソニーの酒井政利ディレクターにとっても日本コロムビア時代に手掛けた青山和子の「愛と死を見つめて」(1964年)以来のレコード大賞受賞曲となったのである。
ことの発端は約2年前に遡る。大手広告代理店が各界のクリエイターを招待した南太平洋への旅において酒井は版画家の池田満寿夫と意気投合し、当時執筆に取りかかっていたデビュー小説「エーゲ海に捧ぐ」の構想を聞かされたことが契機であった。つまりベストセラー書籍に題材を採ったイメージ・ソングを映像化に先駆けて仕掛けていくという手法は「愛と死を見つめて」の時と変わっていない。
歌い手に抜擢されたジュディ・オングは国際派青春スターとして人気を博した1960年代後半にアイドル路線での歌手デビューを飾っているが大きな成果には結びつかずその後は女優業に専念していた。歌手としての捲土重来を期したジュディはソニーへと移籍、酒井がプロデュースを担当することになった。こうしたベテラン女性の再生は酒井にとってお手の物であり、70年代前半にも朝丘雪路、坂本スミ子、金井克子、内田あかりを成功へと導いている。
作詞の阿木燿子は夫の宇崎竜堂とのコンビで山口百恵の一連のヒット曲を手掛けて一躍時代を象徴する女性像へと上り詰めた存在で、当時の酒井の懐刀でもあった。この時期には宇崎以外の作曲家とも積極的に組みだして、キャンディーズのラスト・シングル「微笑がえし」(作曲・穂口雄右)や水谷豊の人気ドラマ主題歌「カリフォルニア・コネクション」(作曲・平尾昌晃)をヒットさせていた。筒美とも岩崎宏美や郷ひろみの作品でコンビを組んでいた。
筒美京平の楽曲としては前年あたりから手掛けてきた庄野真代「飛んでイスタンブール」や中原理恵「東京ららばい」など、ニューミュージック系女性歌手に提供したエキゾチック路線の延長線上にあるもの。またアレンジ面では1960年代後半から随所で取り入れてきたポール・モーリア的なゴージャスなオーケストレーションを施したサウンドの集大成でもある。
80年代以降の筒美は編曲を自ら担当することは少なくなり、次第に若手のアレンジャーにサウンド作り委ねるようになる。また「魅せられて」の余波としては筒美が梓みちよ「よろしかったら」や小柳ルミ子「来夢来人」などベテラン勢の再ヒットに続けて貢献したこと、酒井の陣営からは“シルクロードのテーマ”を掲げた久保田早紀「異邦人」のメガヒットが誕生したことが挙げられよう。
≪著者略歴≫
榊ひろと(さかき・ひろと):音楽解説者。1980年代より「よい子の歌謡曲」「リメンバー」等に執筆。歌謡曲関連CDの解説・監修・選曲も手掛ける。著書に『筒美京平ヒットストーリー』(白夜書房)。
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