2017年04月27日

4月27日はバッドフィンガーのギタリスト、ピート・ハムの誕生日。その数奇な人生とは?

執筆者:東ひさゆき

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ピート・ハムは、忘れがたいアーティストである。その作品も、その駆け足の人生も。


彼はビートルズのアップル・レコードに所属していたアイビーズ、バッドフィンガーのギタリスト、ヴォーカリスト、かつ主要なソングライターで、音楽的にもビートルズに近かった。ビートルズがらみの話を少しすると、バッドフィンガーのデビュー曲「マジック・クリスチャンのテーマ」(70年/米・第7位)はリンゴ・スターが出演した映画の主題歌で、ポール・マッカートニーが作曲、プロデュースを手掛ける。また、グループの4枚目のシングル「デイ・アフター・デイ」(71年/米・第4位)はジョージ・ハリスンのプロデュースで、ジョージの傑作アルバム『オール・シングス・マスト・パス』(70年/米・第1位)や、71年のバングラ・デシュ・コンサートなどにピートもグループの面々も関わっている。


バッドフィンガーで特に印象深い作品を挙げるとすれば、アメリカやイギリスでは70年秋、日本では年が変わった71年1月に発表された「嵐の恋」(米・第8位)である。ラジオから流れてきたその曲を初めて聴いた時の衝撃を、遠い昔のことながら、今も思い返すことができる。ブレイクを活用した、キャッチーなイントロと瑞々しいハード・ポップ・サウンド。ちょっぴり大袈裟な言い方をすると、ビートルズの解散によって生じた喪失感、虚無感を一気に潤してくれた作品で、この1曲だけで作者であったピート・ハムへの関心が高まったものだ。


ピートは1947年4月27日、英・ウェールズのスウォンジー生まれ。4歳でハーモニカを始め、12歳でギターを手にするが、兄の影響でジャズのテイストもそのスタイルに有していた。当初はテレビの修理工として働いていたものの、64年にアイビーズを結成。66年には「アップルビーおばさん」(英・第22位)がヒットしたデヴィッド・ギャリックのバックを務めるまでになり、68年末にアップルより「メイビー・トゥモロウ」(69年/米・第67位)でデビューする。


ただ、この成績にアップルは満足せず、グループの改善に着手。ビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド」の仮題である「バッドフィンガー・ブギー」をもとにグループ名を改め、やがてメンバーの陣容もピートにトム・エヴァンス(ベース)、ジョーイ・モランド(ギター)、マイク・ギビンズ(ドラムス)というおなじみの顔触れに移行していく。


グループにはもう1曲、「ベイビー・ブルー」(72年/米・第14位)という、トッド・ラングレンがプロデュースしたスマッシュ・ヒットがあるが、73年にはワーナー・ブラザーズに移籍するなど、レコード会社やマネージメント・オフィスからは満足のいくサポートを得られずにいた。加えて、メンバー間に生じたトラブルにピートは嫌気が差し、75年4月に脱退。それに伴いグループは解散するが、ピートは4月23日に自ら死を選択する。まだ28歳直前。1週間後には二世が誕生するという時期での決断に精神的なダメージの大きさが感じ取れる。


ところで、バッドフィンガーと言えば、72年にニルソンで全米No.1を記録し、グラミー賞にも輝いた「ウィズアウト・ユー」のオリジナル・アーティストである。ニルソンとは異なる、ピートの純朴なヴォーカルにも好感が持てるが、彼とこの曲を共作し、グループの再結成に関わったトム・エヴァンスもまた83年11月19日に自殺。もはや、この名曲を冷静な気持ちでは聴けないのだが、同じくふたりが共作した名品に「明日の風」がある。前に進もうというポジティヴな歌詞とは裏腹な、愁いのあるサウンドが彼らのその後を暗示していたのかもしれない。





≪著者略歴≫

東ひさゆき(あずま・ひさゆき):1953年4月14日、神奈川県鎌倉市生まれ。法政大学経済学部卒。音楽雑誌「ミュージック・ライフ」、「ジャム」などの編集記者を経て、81年よりフリーランスのライターに。おもな著書に「グラミー賞」(共同通信)など。

メイビー・トゥモロウ(紙ジャケット仕様) アイビーズ

マジック・クリスチャン・ミュージック Original recording remastered バッドフィンガ

ストレート・アップ Original recording remastered バッドフィンガー

ノー・ダイス Original recording remastered バッドフィンガー

ウィズアウト・ユー Single ニルソン

デイ・アフター・デイ [EPレコード 7inch] バッドフィンガー

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