2016年11月24日

今日11月24日は、「ビートルズになり損ねた男」ピート・ベストの誕生日。

執筆者:中村俊夫

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今日11月24日は、ザ・ビートルズのレコード・デビュー前のドラマーだったピート・ベストの75歳の誕生日。ビートルズが栄光への階段を上り始める直前に解雇されるという悲劇の主人公故か、「ビートルズになり損ねた男」という、あまり有り難くない形容詞が付けられて語られることの多い彼だが、かつてビートルズに籍を置いたメンバーの中で、今や“存命組”はポール・マッカートニー(74歳)、リンゴ・スター(76歳)、そしてピート・ベストの3人だけ。世界中の誰もが知る“Fab 4”には成り損ねたが、後世に語り継がれるであろうビートルズ伝説の貴重な当事者側生き証人のひとりであることは間違いない。


ピート・ベストことランドルフ・ピーター・ベストは、1941年11月24日、駐印英軍人だった父ジョンと母モナの間に、当時英国の植民地だったインドのマドラスで生まれた。第二次世界大戦終了後に一家は帰国。リヴァプールに居を構える。ピートが18歳の時に両親が離婚し、ピートを引き取ったモナは、自宅の地下室を改造してコーヒー・バーを開店。ここに地元のバンドが出演するようになり、そのひとつがビートルズだったが、当時彼らにはドラマーが不在だったため、ブラックジャックスというバンドでドラムを担当していたピートが時おり臨時でビートルズに加わり演奏することもあった。


それが縁となり、1960年にポールから誘われビートルズに正式加入。トニー・シェリダンとのレコーディング、デッカ・レコードのオーディションといった無名時代のビートルズの歴史的音源にその演奏の痕跡を残すが、記念すべきデビュー曲「ラヴ・ミー・ドゥ」のレコーディング・セッションには参加したものの、リリースされたレコードに彼の演奏は刻まれていなかった。最初のセッション後に解雇されてしまったからである。一説にはジョージ・マーティンがピートの演奏技術に難色を示したためとも言われている。


1992年夏、筆者はビートルズ・ファンクラブ主催のイベント出演のため来日したピートに雑誌の仕事でインタビューしたことがあるが、 この“解雇宣告の日”の一部始終を次のように語ってくれた。

「朝、ブライアン・エプスタインから事務所に来てくれと電話があって、その時はてっきり次の仕事の打ち合わせだと思った。事務所に行ってみると呼ばれたのはボクだけで、ブライアンが言いにくそうに話を切り出した。<他の3人が君に辞めてもらいたがっている>。ボクには何が起きたのか理解できなかった。だって、昨夜クラブの仕事が終わった後、いつもと変わらぬ様子で3人と別れたから。ブライアンは<できればリンゴが加わるまでの仕事には来てほしい>と言ったけど、頭が混乱してどう返事したかも覚えていない。その日、事務所から家まで、どうやって帰ったかも覚えていない。怒りの感情も無く、ただ世界が終わってしまったような気持ちだった…」

身につまされる内容だが、御本人は至って明るい表情で淡々と語っていた。自分を解雇したバンドが世界の頂点に立つほどの成功を収めて行くのを横目で見ながら、一時は自殺を考えたというほどの苦悶の日々も続いたようだが、すべては時が解決してくれたのだろう。


ビートルズ脱退後、ピートは「オリジナル・オールスターズ」→「ピート・ベスト・フォー」→「ピート・ベスト・コンボ」と名前を変えていく自分のバンドを結成し、何枚かのレコードもリリースしているが、67年に芸能界を引退。製パン工場に1年間勤めた後、リヴァプール市役所の職員となり、職業安定所に約25年間に亘り勤務した。その間には友人たちと「ピート・ベスト・バンド」を結成し、勤務が終わった後に地元のクラブに出演。リクエストに応じてビートルズ・ナンバーも演奏しているそうだ。


波乱万丈のミュージシャン生活から一転、堅実な公務員として第二の人生を歩んでいったピート・ベスト。現在はリヴァプールで悠々自適のリタイア生活を楽しみながらも、他の存命ビートル同様に自分のバンドを率いてマイペースな演奏活動を続けており、アルバムも数作リリースした他、2013年には来日公演も果たしている。世界的ロックスターにはなれなかったが、彼なりに充実した幸せな人生を手に入れたと言えるのではないだろうか。


≪著者略歴≫
中村俊夫(なかむら・としお):1954年東京都生まれ。音楽企画制作者/音楽著述家。駒澤大学経営学部卒。音楽雑誌編集者、レコード・ディレクターを経て、90年代からGS、日本ロック、昭和歌謡等のCD復刻制作監修を多数手がける。共著に『みんなGSが好きだった』(主婦と生活社)、『ミカのチャンス・ミーティング』(宝島社)、『日本ロック大系』(白夜書房)、『歌謡曲だよ、人生は』(シンコー・ミュージック)など。

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