2017年07月04日

竹内まりやがきっかけとなり知ったビーチ・ボーイズ「アイ・ゲット・アラウンド」

執筆者:木村ユタカ

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いまから53年前にあたる64年7月4日は、ビーチ・ボーイズの「アイ・ゲット・アラウンド」がグループ初の全米ナンバーワンを獲得した日である。ビーチ・ボーイズといえば、66年に発表されたアルバム『ペット・サウンズ』がロック史に燦然と輝く名盤として高く評価されているが、サーフィンや車、女の子などの若者文化を歌ってカリフォルニアを代表するポップ・グループへとのぼりつめたビーチ・ボーイズにとって、その魅力をもっとも伸び伸びと明快に発揮したのは63年から65年にかけて、つまり『ペット・サウンズ』以前の数年間だった。


そして、そんな時期の代表作といえるのが、64年7月に発表されて全米アルバム・チャートで第4位をマークした通算6作目『オール・サマー・ロング』だ。初の全米ナンバーワン・ソングとなった「アイ・ゲット・アラウンド」は、このアルバムからの先行シングルだった。


この『オール・サマー・ロング』というアルバムは、僕個人にとっても大変思い出深い一枚だ。というのも、中学3年だった80年代初頭、とある音楽雑誌で竹内まりやさんが好きなサマー・ソングとして、このアルバムに収録されている「浜辺の乙女(ガールズ・オン・ザ・ビーチ)」を挙げていたからだ。その当時、たしか「サーフィンU.S.A.」がテレビのCMに使われてリバイバル・ヒットしていて、ビーチ・ボーイズという名前はかろうじて認識していたと記憶するが、もちろんレコードは持っていなかった。そんなとき、先の竹内まりやさんのコメントを読んだ僕は、その曲が無性に聴いてみたくなり、渋谷の輸入レコード店へと足を運んだ。そして、そこで偶然見つけたアルバムが『オール・サマー・ロング』だったのだ。レコードを手に取り、なによりもジャケットの素晴らしさに目を奪われた。メンバーそれぞれが浜辺でガールフレンドとデートしている写真が散りばめられたそのジャケットから、少年だった僕はアメリカの若者文化に対するイノセントな憧憬を瞬時に抱いたのかもしれない。すぐにレコードをレジに持っていったのは言うまでもないだろう。以来、『オール・サマー・ロング』は僕のフェイヴァリット・アルバムとなった。


あれから35年ほどが経過した現在でも、夏になると必ず耳を傾けたくなるアルバムである。オープニングを飾る最高のホット・ロッド・チューン「アイ・ゲット・アラウンド」、70年代になってジョージ・ルーカス監督の青春映画『アメリカン・グラフィティ』のエンディングで印象的に使われた「オール・サマー・ロング」、ホンダ社製のミニ・バイクのことを歌った疾走感たっぷりの「リトル・ホンダ」、ミスティックスというホワイト・ドゥーワップ・グループのヒット曲を見事なコーラス・ワークでカヴァーした「ハッシャバイ」、そして、転調を駆使した美しいバラード「浜辺の乙女(ガールズ・オン・ザ・ビーチ)」etc……。これぞビーチ・ボーイズといえるメロディ、サウンド、ハーモニーが詰まった名作だ。


天才ブライアン・ウィルソンを擁し、アルバム『ペット・サウンズ』やシングル「グッド・ヴァイブレーション」といった作品でより複雑かつ高度な音楽表現に挑戦していくことになるビーチ・ボーイズが、カリフォルニアの若者たちのイノセントな夢をストレートに表現していた時代の代表作といえる『オール・サマー・ロング』。ビーチ・ボーイズ未体験の若いポップス・ファンの方にも、ぜひ一度耳を傾けてほしい。きっとそこには、まばゆい夏の陽射しとホロ苦い青春の痛みが待っているはずだから……。


≪著者略歴≫

木村ユタカ(きむら・ゆたか):音楽ライター。レコード店のバイヤーを経てフリーに。オールディーズ・ポップスを中心に、音楽誌やCDのライナーに寄稿。著書に『ジャパニーズ・シティ・ポップ』『ナイアガラに愛をこめて』『俺たちの1000枚』など。ブログ「木村ユタカのOldies日和」もマイペース更新中。

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