2016年01月04日
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2016年01月04日
「走れ走れコウタロー」と歌声が聞こえてくる。私はそれを聞いて、あわててギターを抱えて駆け出した。「おーい、また遅刻かよ」。謝る私に歌うのをやめたメンバーの一人が言う。そう、1970年のヒット曲「走れコウタロー」に、なぜ私の名前がついたかといえば、私がいつも練習に遅刻していたからだった。まさかその曲が、その後大ブレイクし、チャートの1位を勝ち取るとは想像もしなかった。遅刻はしてみるものである(ゴメンネ)。
私達はメンバー4人全員が生粋の東京育ちで、そのうち3人は千代田区生まれ。そのくせ、当時のフォークでは関西フォークの社会性にあこがれて、競馬ソングの「走れコウタロー」も、実は当時の美濃部東京都知事が、公営ギャンブルを廃止する云々と宣言して話題となっていたのを取り上げたつもりだった。
デビュー曲は惨憺たる売り上げだったので、所属していたビクターレコードは、我われの第2弾など出す気無し。でも、幸い世はフォークブームが盛り上がらんとしているタイミング。学生主催のフォークコンサートがいくつもあり、東京では珍しいコミックバンド系の我われにはよく声がかかった。そのうち、ラジオの公録にも呼ばれるようになり、「走れコウタロー」を歌うと完璧にウケた。
その噂を聞いたのか、ビクターの担当ディレクターから再び連絡が来て、レコーディングへとトントン話が進み、3月に無事レコーディングを終える。
しかし、ここで上りのエスカレーターから突然突き落とされるような事態が生じた。
メンバーの池田謙吉が、5月のある朝空へと旅立ってしまったのだ。
彼はただのメンバーではない。リーダーだ。「走れコウタロー」の作詞作曲者だ。その上、曲中の美濃部都知事の物真似も、そのあとの競馬の実況の早口も、3番のソロボーカルもコーラスのハイパートも、全て池田がやっていた。レコードは出せるだろう。でも、バンド継続は無理だ、皆そう思っていた。
葬式後すぐにビクターから、バンドを続けて欲しいと説得に来た。首を横に振る私達。
だが、ギブアップして、うつむいていたメンバーの顔を前に向かせたのは、池田のお母さんの言葉だった。
「謙ちゃんのためにも、できたら続けてください。お願いします。」
そうだよな。誰が口惜しいって一番池田が口惜しいに違いない。こりゃ、俺たちめげてはいられない。
しかし、池田に代わる人材はいるのか、いない、はずだ。ん? 一人いた! 佐藤敏夫だ。高校時代はメンバーに入っていたが、その後デザイナーを目指すと言って、バンドから抜けたサトウトシオ→砂糖と塩、つまりしょっぱい砂糖→Salty Sugar。バンド名の由来となった男。高校生にしてバンジョーの名手、ボーカルもすこぶる良い。が、何度我われがバンドに誘っても、断り続けてきたヤツだった。佐藤が戻ってくれるならバンドは続けられるかも、残されたメンバーの意見は一致した。
早速、佐藤を口説く、拝む、懇願する。そして、佐藤がこう答えてきた。「1年でやめていいなら…」。 自分の夢を1年遅らせて、佐藤は亡き池田も含めて私達の夢に入り込んできてくれた。
7月に発売されたシングルは、本当に思いもよらない大ヒットとなった。天国の池田は喜んでいるだろうか? 彼の夢はさらにさらに大きかっただけに納得しているとは思えない。でも、この曲が流れるたびに池田の声が響いていることは確かなのです。
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