2016年01月05日

宮崎駿 × 久石譲 蜜月の終わりとこれから

執筆者:不破了三

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新春1月5日は、アニメーション映画監督:宮崎駿の誕生日である。東映動画(現:東映アニメーション)にアニメーターとして入社して以来、数々のアニメ制作会社を渡り歩くが、1984年の映画『風の谷のナウシカ』をきっかけとして「スタジオジブリ」を設立。以来、ここを拠点に作品を創り続け、アニメファンのみならず、ファミリー層にも「宮崎アニメ」「ジブリアニメ」として広く認知される名作・人気作を生み出してきた、誰もが知る日本アニメ界の巨匠である。緻密な画面構成と明快なストーリー展開、古き良き「まんが映画」の躍動感を現代に伝える「動き」を大切にしたアニメーションづくりを信条とする宮崎アニメだが、音楽もまた欠かすことのできない要素のひとつだ。今回は、『風の谷のナウシカ』から『風立ちぬ』(2013)に至る宮崎駿長編アニメーション映画10作品すべての音楽を担当した、作曲家:久石譲に関するお話し。


4歳でヴァイオリンを習い始め、中学校では吹奏楽部でトランペットを吹き、高校在学中から幌村隆、島岡譲にピアノや音楽理論、作曲を師事していたという久石譲。国立音楽大学作曲科に進み、順当にクラシック系の音楽家になるかと思いきや、大学在学中にスティーヴ・ライヒ、テリー・ライリー、フィリップ・グラスらが標榜するミニマル・ミュージックのムーブメントに傾倒し、現代音楽の作曲家として活動を開始している。一方でテレビ・映画音楽の仕事も始めており、本名の「藤沢守」名義でテレビアニメ『はじめ人間ギャートルズ』(1974)、『ろぼっ子ビートン』(1976)等の音楽を担当していたのは、あまり知られていない事実。1981年には、松武秀樹、高田みどりらの参加するミニマル・ミュージックのアルバム『MKWAJU』においてプロデュースおよび全曲作曲を担当し、実質的なアルバム・デビューも果たしている。


宮崎駿との運命的な出会いとなる『風の谷のナウシカ』(1984)では、フィルムの完成に先駆けて発売されるイメージ・アルバムの楽曲だけを担当する予定であったが、音楽に造詣の深いプロデューサー:高畑勲や宮崎の目に留まり、映画本編の音楽担当として内定していた細野晴臣に代わり、引き続き起用されることになったという逸話がある。


続く、『天空の城ラピュタ』(1986)でも音楽を担当し、宮崎駿×久石譲のコンビネーションは盤石となる。ただ、『ナウシカ』『ラピュタ』の音楽というと、壮大なオーケストラ・サウンドをイメージしがちだが、シーケンス・プログラミングやサンプリングといった、いわゆる「打ち込み系」の音楽が随所に散りばめられていることにもぜひ注目してほしい。久石は、当時最先端の音楽ワークステーション機「フェアライトCMI」を操り、自身の本来のフィールドであるミニマル・ミュージックとコンピューター制御による音楽制作とを、オーケストラ・サウンドと同等の重みを持たせて宮崎アニメ音楽の中に溶け込ませるという、実験的な挑戦を繰り返していたのである。こうした試みは『となりのトトロ』(1988)、『魔女の宅急便』(1989)あたりまで続いていく。


しかし、『もののけ姫』(1997)が描く重厚なテーマを受け止められる音楽を模索するうち、クラシック音楽的なアプローチに開眼し、あらためて研究を開始したという。また、本格的に指揮法を学びなおすなど、作風のみならず、創作活動自体にも大きな変化が訪れる。宮崎駿が一身を賭して挑んだこの大作を前に、久石譲もまた、新たな姿への変容を呼び起こされた格好だ。


以降、宮崎駿が、本作をもって長編アニメーション制作から引退することを発表した『風立ちぬ』(2013)まで、29年間にわたって宮崎アニメに添い遂げることとなった久石譲の音楽。近年では、ミニマル・ミュージックへの創作意欲が再燃し、アルバム『Minima_Rhythm』シリーズのリリース継続など、映画音楽作家としてだけではない、現代音楽作曲家:久石譲の姿が再び見られるようになってきている。宮崎駿との蜜月は終わり、スタジオジブリも制作部門が解体されるなど、着実に時代はあらたなフェイズに入りつつある。「宮崎アニメ」から離陸し、更なる高みを目指す彼の今後にぜひ注目していきたい。


また、宮崎駿が手掛けたアニメーションの音楽といえば、原案・脚本を手掛けた『パンダコパンダ』(1972)の佐藤允彦、劇場用映画初監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)の大野雄二(佐藤・大野両氏は慶應義塾大学ライトミュージックソサエティの同期生)、テレビアニメ『未来少年コナン』(1978)の池辺晋一郎など、他にも異才・奇才が集められているのだが、そのお話はまた別の機会にでも、ぜひ。

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