2016年01月30日

日本ポップスの父・服部良一の意外な仕事…1月30日は服部良一の命日

執筆者:鈴木啓之

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ジャズを出自とし、洋楽のリズムやビートを流行歌に採り入れた作曲家の服部良一は、和製ポップス隆盛の最大の功労者といわれる。戦前から戦後にかけて多くのヒット曲を世に送り出し、後年はレコード大賞の審査委員長やJASRACの会長を務めるなど、日本の音楽界に多大なる貢献を果たした。没年の平成5年には“数多くの歌謡曲を作り、国民に希望と潤いを与えた”という理由から、国民栄誉賞を受賞している。1月30日は服部の命日である。


明治40年、大阪に生まれた服部良一は、小学生の頃から音楽の才能を発揮し少年音楽隊に入隊。大正15年には大阪フィルハーモニック・オーケストラに参加してフルートを担当しながら、ジャズ喫茶でピアノを弾く日々を過ごす。昭和に入るといよいよレコード会社の専属となってアレンジを手がけ、昭和11年にはコロムビアの専属作曲家に。淡谷のり子が歌った「別れのブルース」や「雨のブルース」がヒット、さらには霧島昇とミス・コロムビアによる「一杯のコーヒーから」や、映画で李香蘭が歌いレコードでは渡辺はま子と霧島昇が歌唱した「蘇州夜曲」などの、感傷的なブルース、モダンなジャズ調、異国情緒溢れるメロディといった多彩な作品を発表して人気作曲家の地位を確立していった。


戦時中に敵性音楽とみなされたジャズが排除されたことへの反動もあってか、戦後の活躍も目覚ましく、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」が大ヒット。映画主題歌として作られた「青い山脈」は藤山一郎と奈良光枝が歌い、その後も国民的なスタンダードとなって現在に至る。フリーとなってから活躍の場を移したビクターにおいても、明朗で甘いラブソングの傑作、灰田勝彦の「東京の屋根の下」や、映画主題歌として高峰秀子が歌った「銀座カンカン娘」などのヒットが連なった。ちなみに、“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子のモノマネをきっかけにスターの道を歩んだ美空ひばりへは、僅かに1曲、ヒットには至らなかった「銀ブラ娘」を書き下ろしているのみだが、ひばりに「お祭りマンボ」や「素適なランデブー」を書いた原六朗は服部門下の作詞家・作曲家である。


さて、以上の辺りまでの経緯はいずれもお馴染みの事実であろうが、作曲界の重鎮となってからの昭和40年代の歌謡曲仕事については語られる機会が少ないのではないだろうか。レコードの主流がモノラルからステレオへと移行した38~9年頃からの数年に亘り、主に東芝レコードにおいて楽曲を提供する機会が頻繁となり、特筆すべき作品がいくつかある。まずは、39年2月に東宝で公開された映画『ミスタージャイアンツ 勝利の旗』。なんと長島茂雄が主演したこのカルトな作品の主題歌「勝利の旗」も服部作曲で坂本九が歌っている。当時は巨人軍のスタープレイヤーだった柴田勲が歌うカップリング曲「ブブンブンブンジャイアンツ」も服部の作。なお、劇中音楽も服部が担当しており、優勝祝賀パーティーのシーンでは服部も登場して指揮をする姿を見せる貴重な映画である。


同時期には、「蘇州夜曲」で一世を風靡した服部らしく、陳玉華という女性歌手に「香港夜曲」などのオリエンタル・ムード溢れる楽曲を複数提供している。少し後の43年には、グループサウンズのナンバーも手がけているのはご存知だろうか。同年に「すてきなエルザ」でレコード・デビューしたザ・ライオンズの2枚目「ハイウェイ小唄」のB面「よい子のゴーゴー」が服部の作なのだ。サブタイトルに(子供交通安全数え唄)とある完全なる企画盤ながら、小谷充のビートの効いたアレンジで歌われる怪作。一切繋がりが無さそうな服部良一とGSに接点があったというのは意外な事実であろう。


極め付けとしては、42年8月から半年間放映された特撮番組の主題歌「光速エスパーの歌」が挙げられる。三ツ木清隆が主演したヒーロー物の主題歌を歌ったのは、東芝専属の望月浩。41年にビートルズが来日した際、武道館公演の前座のひとりを務めた青春歌手である。サブテーマの「幸せのブルー・スター」もセンチメンタルな佳曲だった。番組の初期には作曲者名が“星 一”とクレジットされていたが、その後は服部良一に戻され、レコードにももちろん服部の名が表記されている。劇伴を息子の服部克久が担当しているのも興味深い。克久も歌謡曲や映画・テレビ音楽等で幅広く活躍を見せ、さらにその才能は孫の服部隆之にもしっかりと受け継がれた。親子三代に亘って作曲家、しかも皆第一線で活躍というのは実に稀有な例である。没後23年、大作曲家・服部良一の遺伝子は今も生き続けている。

服部良一

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