2017年06月04日
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2017年06月04日
今や日本のエンターテインメント産業において、中核を成すと言っても過言ではない「アイドル」。音楽的に今のスタイルに到達するまでの約半世紀の間には、何度かの「節目」と呼ぶべき出来事を迎えている。最初の曲がり角が訪れたのは、疑いなく1972年(昭和47年)のことだ。何をもってして具体的にその年を「節目」と呼ぶかには諸説あるが、なるべく簡潔にその年周辺の出来事をまとめることで、「第一次アイドル黄金期」のコロムビア音源から厳選した『コロムビア・ガールズ伝説 FIRST GENERATION』の紹介文代わりとしておきたい。
『EARLY YEARS』のトップを飾った、和製ポップス第一号とされるエミー・ジャクソン「涙の太陽」のヒット以降、翌年のビートルズ来日やGSムーヴメントの隆盛、それに伴う新進作家の台頭などにも手助けされ、女性歌手が歌うポッブス歌謡は大きな発展を遂げていた。それが70年代に差し掛かる頃になると、学生運動など社会的激震の影響もあってか、流行歌の世界も内省モードに入り始め、若手歌手よりも長い下積み時代を経た中堅歌手が歌う手堅い曲が好まれるようになっていた。
1971年には、4月に小柳ルミ子、6月に南沙織、10月に天地真理が其々デビュー。従来の歌謡曲の枠組みからはみ出ることなく、フレッシュな存在感をアピールし一躍人気歌手の仲間入りをするが、アイドルポップス的観点からこの年最大の記念碑的出来事を選ぶとすると、10月3日日本テレビ系列で画期的オーディション番組「スター誕生!」が放映開始されたことに尽きるだろう。
五木ひろしや八代亜紀のキャリアに火をつけた「全日本歌謡選手権」など、この種の番組はそれ以前に皆無というわけではなかったが、「スター誕生!」の場合はグランドチャンピオンが誕生しデビューするまでのドラマ性が視聴者を刺激し、シンデレラストーリーを志す少女(時に少年も)を続出させることになった。それ以上に記念碑的だったのが、この番組をきっかけとして芸能界に羽ばたいていくことになる面子の凄さである。
翌72年の第1回放映となった第1回グランドチャンピオン大会で栄冠を勝ち取った森昌子は、同年7月「せんせい」でデビュー。翌年この番組をきっかけにデビューする桜田淳子・山口百恵と共に「花の中三トリオ」と呼ばれ、大ブレイクする。中三トリオ以降「スター誕生!」がアイドル界にどのように貢献したかは、歴史が豊潤に物語ってくれる通りだ。「スタ誕」と離れたところでも、6月に麻丘めぐみ、8月に小林麻美、11月にアグネス・チャンがデビュー。翌年3月には石川さゆり、4月には浅田美代子が登場し、若々しい風が次々と歌謡界に吹き荒れた。西城秀樹・郷ひろみ・野口五郎など男性陣にも最強のラインナップが揃い、こうして73年には第一次アイドル戦国時代が始まる。
そんな72年を皮切りに、次の節目を迎える前年・79年までにコロムビアからデビューした女性アイドルのラインナップを今眺めてみると、後にカルトな存在として再浮上することになる人や、全く別のジャンルで存在感を極めた人が目立つのだ。2枚のCDにその歴史を凝縮するのは実に困難な作業だったが、特に重要と思われる、もしくは再評価が必要とされると判断した歌手の曲は最大で3曲まで選ばせていただいた。
また、当時の歌謡曲の雑多な体質を踏まえ、特に80年代以降のアイドル音楽を追いかけている人達にとっては敵対勢力という印象が強い、演歌もしくはニューミュージックのジャンルに分類される若手女性歌手をここでは決して見捨てず、何人かにスポットを当てさせていただいた。中にはその両側に揺れてしまったという極端な例まである。70年代の歌番組の中では、多少息苦しさを感じさせつつも、あらゆる傾向を持つ歌手たちが画面の中の空間を共有し、視聴者はそのバラエティに魅せられつつ、次のお小遣いでどのレコードを買うか心を躍らせていたのである。今のアイドル周りからは絶対うかがい知れないワクワク感があったのだ。
[曲目メモ]
夏のお嬢さん(1978年7月1日/PK-118)
作詩:笠間ジュン 作曲:佐々木 勉 編曲:小六禮次郎 歌:榊原郁恵
「ホリプロタレントスカウトキャラバン」からのデビュー第一号にして、70年代後期最大のアイドルの一人。オリコン11位と、大ブレイクを果たした7枚目のシングル。男の子の立場から歌われる歌詞はアイドルの夏を象徴する言葉のオンパレード。未だに歌い継がれるサマーアンセム。
私の先生(1977年1月1日/PK-36)
作詩:橋本 淳 作曲:井上忠夫 編曲:馬飼野俊一 歌:榊原郁恵
こちらがデビュー曲。力を入れられた割にオリコンでは55位と、ブレイクまでには少し時間を要した。プラトニックの極致な歌詞がくすぐったい。他にもプロトテクノ歌謡の傑作「ROBOT」など、ヒット曲は数多く、結婚後の活動に至るまでアイドルの模範を指し示し続けた優等生の一人。
花の女子高数え歌(1977 年6 月1 日/ PK-60)
作詩:石原信一 作曲:中村泰士 編曲:馬飼野俊一 歌:谷ちえ子
新沼謙治に続き「スター誕生!」からデビュー。民謡が得意で親しみやすい性格を反映した、ある意味キワモノすれすれと言えるデビュー曲。初期のシングルでは、この曲を筆頭にノベルティ気味の楽曲を豪快な歌唱力でこなした。
あなたを愛したい(1978 年2 月1 日/ PK-97)
作詩:千家和也 作曲:中村泰士 編曲:あかのたちお 歌:谷ちえ子
一転して自虐的タッチで愛を乞う新境地を見せた3枚目のシングル。一旦引退後、牛タンのお店開業を経て、2012年に歌手復帰。ライヴ活動をコンスタントに続け、新曲も発表した。
経験シーズン(1978 年6 月1 日/ PK-108)
作詩:山上路夫 作曲:森田公一 編曲:若草 恵 歌:大橋恵里子
引き続き「スター誕生!」から登場、石野真子のライバルとして大いに期待された大橋恵里子のデビュー曲。キラキラさを欠く歌声はむしろマニアをそそったが、グラビアやバラエティ番組での活躍で青少年達の記憶にしっかり残った。
恋に大接近(1978 年9 月1 日/ PK-121)
作詩:竜 真知子 作曲・編曲:馬飼野康二 歌:大橋恵里子
2枚目のシングル。歌唱も固さが取れ王道アイドルポップスを無難にこなす。この後80年まで5枚のシングル、1枚のアルバムをリリースしコンスタントに活動。そして真のラストシングルは、このコンピの最後に。
おもかげ列車(1978年8月1日/AK-137)(音源提供:ホリプロ)
作詩:有馬三恵子 作曲:三木たかし 編曲:萩田光雄 歌:あいあい(早苗・由美)
「ホリプロタレントスカウトキャラバン」第2回で審査員特別賞を射止めた双子姉妹。こまどりを送り出した元祖の意地でコロムビアも力を入れ、様々な路線へと誘導した。演歌ルーツとさわやかなハーモニー感覚が絶妙に同居する2枚目のシングルがこの曲。
プリズムカラーの夏ざかり(1978年8月1日/PK-119)
作詩:遠藤幸三 作曲:松尾一彦 編曲:大竹雅朗 歌:ゴールデンハーフ・スペシャル
東宝レコードに4枚のシングルを残したゴールデン・ハーフの公式後継ユニット。メンバーが一人離脱してコロムビアに移籍、キャンディーズの亜流路線を強いられた第1弾。後にオフコースで大ブレイクした松尾一彦の貴重な初期提供曲。この後さらにアブない路線へと舵を切ることに。
想い出の指輪(1978年7月1日/AK-132)(音源提供:ホリプロ)
作詩:笠間ジュン 作曲:佐々木 勉 編曲:若草 恵 歌:高田橋久子
こちらも 「ホリプロタレントスカウトキャラバン」第2回の審査員特別賞。「夏のお嬢さん」コンビからの曲提供という大サポートを得つつ、その「癖のなさ」がかえって愛しさを醸し出すデビュー曲。
かげろう日記(1979年3月1日/PK-142)(音源提供:ホリプロ)
作詩:久保田広子 作曲:榊原政敏編曲:井上 鑑 歌:高田橋久子
アイドル路線に歩み寄った「ハートにタッチ」もヒットに至らず、ダ・カーポを作家陣に起用してトラディショナル路線へと舵を切った3枚目。ドラマティックな曲展開に彼女本来の魅力が滲み出た聴き応え充分の一曲。
涙のつづれ糸(1979年6月1日/PK-153)(音源提供:ホリプロ)
作詩・作曲:小坂恭子 編曲:井上 鑑 歌:高田橋久子
続いて小坂恭子作曲によるトラディショナル路線第2弾。大胆なアレンジを得てグイグイと聴き手を魅了する、本来の意味でのニューミュージックと呼びたくなる隠れた逸品。ジャケットがとらえどころなさすぎるのが惜しい。
エピローグ(1978年10月1日/PK-124)
作詩:たかたかし 作曲:林 哲司・高橋拓也 編曲:大谷和夫 歌:松木美和子
大阪タイガースの内野手・松木謙治郎を父に持ち、平凡出版主催「オリジナル・ソング・グランプリ」での優勝をきっかけにデビュー。自ら多重録音したコーラスが鮮やかなデビュー曲。この後、スタジオミュージシャン、ユーミン等のライヴでのバックコーラスと、裏方として大活躍する。
シンデレラ(1978年11月1日/PK-130)
作詩:橋本 淳 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀 歌:高見知佳
デビュー早々そのひょうきんな性格でバラエティ界を賑わせた高見知佳のデビュー曲は、筒美京平が手がけたアイドルポップス超王道。生まれながらのスター性がアイドル冬の時代では災いになったか、なかなかヒットに恵まれず、それでも一途にレコード発表を続けた。
お嬢さんお手やわらかに(1979年5月1日/PK-150)
作詩:橋本 淳 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀 歌:高見知佳
3枚目のシングル。前年解散したあの3人組を挑発するような歌詞、メロトロンと思しき音の使用など、じわじわと心をくすぐる一曲。様々なタイプの曲に挑みつつ、84年15枚目のシングル「くちびるヌード」で遂にチャートの壁を突き破った。
恋愛未遂常習犯(1979年2月1日/PK-140)
作詩:麻生香太郎 作曲・編曲:あかのたちお 歌:たかだみゆき
のちに演歌歌手として息の長いヒット曲を多数放った「ひとりあそびになれた女のこ」のデビュー曲。転校60回以上というドラマティックな人生経験に育まれたインパクトたっぷりの歌声で多重人格を弄ぶ、カルト歌謡ファンに密かに愛され続ける逸品が遂に初CD化となる。
ふりむけないの(1979年6月1日/PK-159)
作詩:杉 紀彦 作曲:杉本真人 編曲:あかのたちお 歌:尾形明美 コロムビア・オール・スターズ
こちらものちに演歌歌手を経て、アニソン界にまで足跡を残した「歌のお姉さん」のデビュー曲。銀座のノスタルジックな側面を純情たっぷりに歌い込む堅実な歌謡曲。親しみやすさ半端ない。
恋のローラー・ブーツ(1979年12月1日/PK-180)(音源提供:ホリプロ)
作詩:橋本 淳 作曲:佐々木 勉 編曲:矢野立美 歌:比企理恵
またまた 「ホリプロタレントスカウトキャラバン」出身、昭和40年代生まれアイドル第1号として話題になった比企理恵のデビュー曲。いよいよ80年代到来前夜、フレッシュな歌声がアイドルの未来を予感させた。
想像力少女(1980年12月1日/AK-752)(音源提供:ホリプロ)
作詩・作曲:森 雪之丞 編曲:若草 恵 歌:比企理恵
郁恵の「ROBOT」の傾向をさらに推し進め、大胆なニューウェイヴ歌謡に挑んだ5枚目のシングル。ギミック満載のサウンドは最早オルタナティヴの領域に達している。
ゲームオーバー (終曲) (1980年9月1日/AK-703)
作詩:吉田 旺 作曲・編曲:鈴木邦彦 歌:夏山美樹
「スター誕生!」で認められ「京都初雪」で74年デビューした梶たか子が改名しての再デビュー曲。大人っぽいディスコ歌謡に演歌っぽい節回しが不思議と調和。現在も夏山美樹名義を維持し、ジャズシンガーとしてライヴ活動中。
夢で逢えたら(1982年3月21日/AH-186)
作詩・作曲:大瀧詠一 編曲:鈴木 茂 歌:ELLE(大橋恵里子)
「ロンバケ」の大ブレイクに応え、ナイアガラの古巣コロムビアが3・21に放ったはなむけのカバー。鈴木茂をアレンジに起用してのリスペクト満載なサウンド。その後も北原佐和子がカバーするなど、度々アイドル史に登場してくる永遠のエヴァーグリーン曲。
≪著者略歴≫
丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 5月24日、初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』(3タイトル)が発売された。
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