2019年08月12日

1974年8月12日、沢田研二が「追憶」でソロ2作目のオリコン1位を獲得

執筆者:濱口英樹

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筆者が沢田研二に関するコラムを執筆するのは、2月の「カサブランカ・ダンディ」(79年)、5月の「ダーリング」(78年)に続いて今年3本目。すっかりジュリーづいているが、今回は45年前の74年8月12日、オリコンのシングルランキングで1位を獲得した「追憶」に関して、当時の音楽シーンとジュリーの状況を交えて振り返りたい。


前年10月に発生したオイルショックで、日本の高度経済成長は終焉を迎えたが、不景気もものかは、74年の音楽業界は活況を呈していた。音楽ソフト(シングル+LP+カセット)の生産金額は前年比116%。特にLPの伸びが目覚ましく(前年比130%)、それは『氷の世界』の大ヒットで、旧譜もすべてトップ10入りした井上陽水や、『彷徨』の小椋佳、『三階建ての詩』のかぐや姫など、当時ブームのフォーク勢が支えていた。一方、シングルではオリコンが集計を開始した68年以来、初めて4作のミリオンヒットが誕生。顔ぶれは、殿さまキングス「なみだの操」、小坂明子「あなた」、中条きよし「うそ」、中村雅俊「ふれあい」で、演歌も、フォークも、ポップスも、バランスよく売れていた。年間トップ10にはフィンガー5「恋のダイヤル6700」や、西城秀樹「激しい恋」など、アイドルの楽曲もランキングされており、まさに群雄割拠といえる状況だった。


そんな中、ジュリーは既存のジャンルにあてはまらない、独自のポジションを築いていた。ザ・タイガースの一員としてデビューしてから8年目。ソロ活動を開始した71年以降は、ニューロック、オールディーズ調のロックンロール、ブラスロック、フレンチポップスなど、洋楽のエッセンスを採り入れた様々なタイプの曲をすべてヒットさせていた。前年リリースの「危険なふたり」で、ソロとして初のオリコン1位を獲得し、日本歌謡大賞を受賞した彼は、もはやGS出身のアイドルではなく、衆目の認めるスターであった。そして74年は日本人アーティスト初の全国縦断ツアー『JULIE ROCK’N TOUR』を敢行。ステージではインディアンルックなど、奇抜なメイクとコスチュームを披露し、のちの「ド派手なジュリー」を予感させるエンターテイナーぶりも発揮している。同年、海外にも進出したジュリーは、英国やフランスでレコーディングを行ない、翌75年に発売された「Mon Amour Je Viens Du Bout Du Monde」(日本では山上路夫が訳詞を手がけ「巴里にひとり」の邦題で75年5月にシングル化)はフランスのラジオチャートで最高4位のヒットを記録した。




スターの座に安住せず、次々と新しいことに挑戦していたジュリーのプロジェクトは加瀬邦彦の存在を抜きにしては語れない。自身がリーダーを務めていたザ・ワイルドワンズを71年に解散した加瀬は、ソロに転向したばかりの沢田をプロデュース。2ndシングル「許されない愛」(72年)以降、作曲家としても多くの作品を提供しているが、10thシングル「追憶」もそのひとつだった。作詞の安井かずみ、編曲の東海林修はともに初期のメインスタッフで、安井×加瀬×東海林の3人は「あなたへの愛」(73年)や「危険なふたり」でもタッグを組み、いずれも成功を収めている。衣装やパフォーマンスなど、ヴィジュアル面も重視した加瀬は73年、デザイナーの早川タケジをスタイリストに起用。バックバンドの井上堯之バンドを含め、最強のチームに支えられたジュリーは、音楽でも、ファッションでも、時代の先端を行くスーパースターへの道を歩み始める。


その過程である74年7月10日にリリースされた「追憶」はオリコンで初登場6位。以後、2位を2週続けたあと8月12日付けでトップに立ち、ジュリーにとって2作目の1位獲得曲となる。曲調は、フランスでヒットした「Mais Dans La Lumiere」を日本語でカバーした「魅せられた夜」(73年)に連なる、フレンチポップス風のミディアムバラードで、構成は2ハーフ。Aメロを短調で展開したあと、サビで長調に転調するのも「魅せられた夜」と同じであったが、「追憶」には大サビが用意され、よりドラマチックな仕上がりとなっている。年間ランキングで11位をマークした「追憶」は、日本レコード大賞で2度目の歌唱賞をジュリーにもたらしたほか、紅白歌合戦でも歌唱されるなど、この年を代表するヒット曲となった。なお、早川タケジがアートワークを担当した5thアルバム『JEWEL JULIE 追憶』には、やはり東海林修がアレンジを手がけたロング・バージョンの「追憶」が収録されているので、機会があればぜひ聴き比べていただきたい。



沢田研二「許されない愛」「危険なふたり」「追憶」「Mon Amour Je Viens Du Bout Du Monde」「巴里にひとり」ジャケット撮影協力:鈴木啓之&中村俊夫


≪著者略歴≫

濱口英樹(はまぐち・ひでき):フリーライター、プランナー、歌謡曲愛好家。現在は『昭和40年男』(クレタ)、『EX大衆』(双葉社)、『週刊ポスト』(小学館)等の雑誌やWEBに寄稿するかたわら、FMおだわら『午前0時の歌謡祭』(第3・第4日曜24~25時)に出演中。近著は『ヒットソングを創った男たち 歌謡曲黄金時代の仕掛人』(シンコーミュージック)、『作詞家・阿久悠の軌跡』(リットーミュージック)。

Jewel Julie-追憶-沢田研二 Kenji Sawada 形式: CD

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