2019年04月25日
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2019年04月25日
1978年に発表された細野晴臣の『はらいそ』は『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』に続くトロピカル三部作の三作目として、そしてYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)結成前夜のアルバムとして知られている。
トロピカル三部作に入れられているのはエキゾチックなイメージの曲が何曲か入っているから。YMO結成前夜のアルバムとみなされるのは、「ファム・ファタール~妖婦」という曲で、後にYMOを結成することになる坂本龍一、高橋幸宏がレコーディングに参加しているからだ。
『はらいそ』はまた彼がクラウン・レコードからアルファ・レコードに移籍し、アルファ・レコードのスタジオでレコーディングした最初のソロ・アルバムでもある。
クラウンは日本コロムビアから分かれて、北島三郎や水前寺清子によって演歌の一時代を作った会社だが、70年代にはかぐや姫や風やイルカなどのフォーク系の音楽でも成功を収めていた。『トロピカル・ダンディー』と『泰安洋行』はそのフォーク系のレーベルPanamから発売された。
一方のアルファ・レコードは作曲家の村井邦彦によって1977年に設立された会社だ。村井邦彦はその前に原盤制作会社のアルファ&アソシエイツでユーミンやハイ・ファイ・セットなどの都会的なポップスをプロデュースしていた。彼の洗練された感覚はアルファ・レコードの制作方針にも引き継がれた。
細野晴臣は鈴木惣一朗著『細野晴臣 録音術』という本の中で、演歌やフォークの会社から都会的なポップスの会社へ移籍したときの印象を「クラウンという南部のレーベルから、突然、ロスのA&Mに抜擢された感じだよ」と語っている。
ちなみにA&Mはかつてチャーリー・チャップリンが持っていたスタジオの敷地に建てられたロサンゼルスのレコード会社だ。60年代から70年代にかけては、ハーブ・アルバート、セルジオ・メンデス&ブラジル66、カーペンターズ、スーパートランプなどを成功させていた。当時はアメリカ西海岸ならではの明るいサウンドの音楽で知られていた。YMOをアメリカに紹介することになるトミー・リピューマ もA&Mと縁の深いジャズ/フュージョンのプロデューサーだ。
村井邦彦はアルファ・スタジオを作るにあたってA&Mのスタジオを手がけた建築設計家ジャック・エドワードに相談した。「国際水準を超える。日本で一番良い音を作る」のが目標だったと彼は『村井邦彦のLA日記』で語っている。
『はらいそ』はそのスタジオでレコーディングされた。音楽的な要素は『トロピカル・ダンディー』や『泰安洋行』の延長線上にあるが、サウンドの仕上がりがすっきりとして明快なのは、スタジオの機材の特性によるところもあるのだろう。
このアルバムを細野晴臣は「醒めて」「理性的に」「地上的」「現実的」になっていた時期に作ったと回想している。また、ニューヨークのフュージョン系のミュージシャンの洗練された演奏に刺激された部分があったとも語っている(『エンドレス・トーキング』)。それらもまたこのアルバムが三部作の中で最も洗練されたサウンドに仕上がっている理由だろう。
『はらいそ』はポルトガル語のパライーソ(パラダイスのこと)が隠れキリシタンによって「はらいそ」となまって伝えられたもの。エキゾチックで妖しい楽しさに満ちあふれたこのアルバム・タイトルにぴったりの言葉だ。
1曲目「東京ラッシュ」の景気のいいラッパの音が聞こえてきたら、そこはもうごきげんな世界漫遊のはじまりである。
≪著者略歴≫
北中正和(きたなか・まさかず):音楽評論家。東京音楽大学講師。「ニューミュージック・マガジン」の編集者を経て、世界各地のポピュラー音楽の紹介、評論活動を行っている。著書に『増補・にほんのうた』『Jポップを創ったアルバム』『毎日ワールド・ミュージック』『ロック史』など。
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