2016年06月10日

天賦の才 作曲家・中村八大 6月10日はその命日

執筆者:鈴木啓之

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1950年代にビッグ・フォアの一員として大人気を博したジャズ・ピアニストの中村八大は、その後、作曲家としての活動を主にし、「黒い花びら」「上を向いて歩こう」をはじめ、多くのヒット曲を世に送り出した。70年に催された日本万国博覧会のテーマ「世界の国からこんにちは」や、今も続く人気番組『笑点』のお馴染みのテーマ音楽なども氏の作品で、正に国民的作曲家のひとりといえる。92年に61歳で世を去ってから早20余年が経つが、氏が作った音楽はずっと愛され続けている。6月10日は中村八大の命日である。


早稲田大学文学部時代、先輩にあたる渡邊晋と知遇を得て、後に渡辺晋とシックス・ジョーズとなるバンド、ファイヴ・ジョーズ&ア・ジェーンに参加するも、志向性の相違から脱退して新たにメンバーとなったのが、ドラマーのジョージ川口率いるジャズコンボ、ビッグ・フォアであった。折からのジャズブームに乗り、ラジオのレギュラー番組や各所のステージなどで大活躍して名声を轟かせることとなる。バンド活動と並行してソロでの活動も展開される中、転機となったのは59年、東宝で制作された映画『青春を賭けろ』の音楽を担当し、その挿入歌「黒い花びら」を手がけたこと。


出演者のひとり、水原弘が歌った同曲はレコード化されてこの年に始まった『日本レコード大賞』の記念すべき第1回受賞曲となり、作曲家・中村八大もクローズアップされることとなった。『青春を賭けろ』は氏にとって初めての映画音楽作品で、姉妹作ともいえるロカビリー映画『檻の中の野郎たち』も同時に手がけた後、深い縁のある渡辺プロのザ・ピーナッツが主演した日活映画『可愛い花』の音楽も担当するなど、この年だけで6本もの映画音楽を手がけている。「黒い花びら」は作詞の永六輔との共同作業で複数の挿入歌が作られた際の1曲。しかしこれほどまでの後世に残るナンバーになろうとは、おそらく二人とも予測していなかっただろう。日劇ウエスタンカーニバルの成功を受けてのロカビリー・ブームから生まれたスターは、山下敬二郎、平尾昌章(現・昌晃)、ミッキー・カーティスの“ロカビリー三人男”を中心に、井上ひろし、水原弘、守屋浩ら、そしてダニー飯田とパラダイス・キングの一員だった坂本九もそのひとりで、中村八大とはその後深い関わりを持つことになるのは周知の通り。


「上を向いて歩こう」は、61年7月に開催された『第3回中村八大リサイタル』のために作られた曲だった。ちなみにその時に発表された「夜の太陽」は、前年にデビューしたばかりの俳優・加山雄三の歌手デビュー曲となっている。坂本九「上を向いて歩こう」は10月にレコード発売され、この年にスタートしたNHKのバラエティ番組『夢であいましょう』の10・11月の<今月のうた>として紹介されたのを機に大ヒットとなった。さらに翌年、ヨーロッパを皮切りに世界的なヒットへと拡大し、63年には全米チャート1位という快挙を成し遂げるのである。『夢であいましょう』からは、永六輔と中村八大の不動のコンビで、その後、同名のテレビ番組主題歌に使われたジェリー藤尾「遠くへ行きたい」(62年)や、六・八コンビにとって2度目のレコード大賞受賞曲となった梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」(63年)などの大ヒット曲が生み出されていった。当時は音盤化されなかった作品や、レコードが出されながらもヒットには至らなかった作品の中にも傑作は多い。


坂本九では、青島幸男が作詞し、中村が作曲した「明日があるさ」も、現在でも広く知られるスタンダード・ナンバーのひとつである。63年12月にレコード発売されて翌年にかけてのヒットとなり、同名のバラエティ番組も制作された。中村と同世代ながらも、氏を作曲家として尊敬していた宮川泰はこの「明日があるさ」を聴いて、自分もこんな明るく前向きな曲を書きたいと揮い立ち、「若いってすばらしい」を書き下ろしたのだという。言われてみれば両曲にはたしかに通じ合うものがある。いずれも日本の高度経済成長時代を象徴する和製ポップスの傑作で、2000年代に入って再び脚光を浴びたのも充分頷ける。


ほか、広く知られているであろう中村八大の作品は、奇天烈ソングの嚆矢といえる森山加代子「じんじろげ」や、第1回合歓ポピュラーフェスティバルでグランプリを受賞したシング・アウト「涙をこえて」、西田佐知子らが歌った清酒・菊正宗のCMソング「初めての街で」などなど枚挙に暇がない。遺作となった「ぼく達はこの星で出会った」 は第1回古関裕而記念音楽祭で松崎しげるが歌って金賞を受賞した曲で、氏の遺言とも受け止められそうなスケールの大きな作品である。宇宙的な拡がりを持つ詞は山上路夫氏の作。この特別に強い想いが込められた最後の傑作こそ、「上を向いて歩こう」と同様に多くの人々に聴かれ、愛されるべき魂の歌と思うのだ。中村八大は紛れもない天才であった。

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