2017年03月09日

47年前の今日、森山加代子「白い蝶のサンバ」がオリコン1位を獲得

執筆者:鈴木啓之

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卒業シーズン真っ只中の3月9日といえば、レミオロメンの「3月9日」を思い出す向きも多いであろうが、この日は今から47年前の1970年のヒットチャートで、森山加代子の「白い蝶のサンバ」が1位を獲得した日でもある。60年代に外国カヴァー曲を中心に一世を風靡したポップス・シンガーがオリジナル歌謡で息を吹き返し、再び第一線へと躍り出た記念すべきナンバー。それから5日後に開催された日本万国博覧会で巷が沸いていた時期に一番ヒットしていた歌謡曲ということになる。ちなみにこの週のチャートベスト3は、第2位が内山田洋とクール・ファイブ「逢わずに愛して」、第3位がザ・ドリフターズ「ドリフのズンドコ節」であった。


1942年3月23日生まれの森山加代子が東芝レコードからレコードデビューを果たしたのは1960年6月のこと。イタリアのミーナが歌っていた「月影のナポリ」のカヴァーでデビュー・ヒットを飾った。函館出身の彼女は札幌のジャズ喫茶で歌っていたところをスカウトされて上京。マナセプロダクションに所属し、水原弘率いるバンド、ブルー・ソックスの専属シンガーに。1959年12月に日劇ウエスタンカーニバルの初舞台を踏んでいる。そしてデビュー曲からすぐに大ヒットという順風満帆な滑り出しであったといえよう。続いて「メロンの気持」「月影のキューバ」とカヴァー曲のヒットを連ね、1961年に出した中村八大作のオリジナル歌謡「じんじろげ」は珍妙な歌詞とリズミカルな曲調が話題を呼んでこれまたヒットしている。かつて榎本健一がヒットさせたコミカルな歌「パイのパイのパイ」をカヴァーしたのもその流れからであったと思われる。同じ事務所で仲良しだった坂本九とは、大映『悲しき60才』、東宝『アワモリ君』シリーズ(いずれも1961年)など映画での共演も多く、ほのかなロマンスが伝えられたりもした。

 

その後も「ポケット・トランジスタ」や「五ひきの仔ブタとチャールストン」などコンスタントにヒットを重ねたものの、次第にリリースも沈静化してゆき、1960年から3回連続で出演したNHK紅白歌合戦も1962年まで。一旦は第一線から退いていたが、そうした60年代後半のブランクを一気に打ち破って華麗なる復活を遂げたのがコロムビアに移籍して出された「白い蝶のサンバ」であった。折しも、同時代に東芝で活躍した弘田三枝子がやはりコロムビアに移籍した後に「人形の家」を大ヒットさせたケースを追うように、起死回生のカムバック・ヒットを放ったわけである。1970年1月25日に発売された「白い蝶のサンバ」はチャートを上昇して3月9日付で遂に1位を獲得。3週連続で首位をキープして50万枚に迫る大ヒットとなった。紅白歌合戦にも実に8年ぶり4度目の出場を遂げている。

 

しばらくレコードのリリースが途絶えていた森山にカムバックのきっかけをもたらしたのは、かつての盟友・水原弘だった。地方営業が多くなっていた森山が新潟のクラブに出演した際、陣中見舞いに楽屋を訪れた水原の励ましによって意を決したという。新天地のコロムビアでいくつかあった候補曲の中から森山自らが選んだのが、阿久悠作詞、井上かつお作曲によるナンバーで、軽快なリズムに乗せた早口言葉の如き面白い展開の曲には、かつての「じんじろげ」のイメージも少なからず重ね合わせるところがあったかもしれない。名作詞家・阿久悠の初期の代表作のひとつにも挙げられるヒットである。一度聴けば思わず口ずさみたくなるような楽しい楽曲で、歌手・森山加代子のチャーミングな魅力を引き出すことに見事に成功した。川口真のアレンジ力によるところが大きかったのも間違いない。続いてのシングル「ふりむいてみても」はスマッシュヒットにとどまり、次の「お嫁に行きたい」のカップリングに「火遊びのサンバ」、さらに次のシングルとして「花喰う蟲のサンバ」が出されるも惜しくもヒットには至らなかった。しかしながら「白い蝶のサンバ」はずっと愛され続け、島谷ひとみや一青窈、モーニング娘。らによるカヴァーが記憶に新しい。



≪著者略歴≫

鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。

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