2017年03月03日
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2017年03月03日
ニール・ヤングは、『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』の裏ジャケットで見慣れた、例のパッチワークのジーンズ姿だった。会場には自分と同じような服装の男の子たちが沢山いて驚いた、というような感想を後に述べていて、当時の我が身を重ねると、照れ臭くもあれば、微笑ましくもあり、妙に懐かしい。そこには、文字通り、40年以上前の自分がいたからだ。
1976年3月3日に愛知県立体育館で幕を開け、4、5、6日と大阪フェスティヴァルホールで、8日には福岡九電記念体育館でと言った日程を経て、10、11日の日本武道館で幕を閉じるまで計7回。それが、ニール・ヤングの初めての来日公演だ。全ての公演をと思ったが、仕事もあって都合がつかず、結局、愛知と福岡には行けずじまいだった。
アコースティック・セットによる1部では、ピアノを弾きながら一人で、「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」を歌い、バンジョーを軽快に爪弾きながら「孤独の旅路」を歌ったり、みずみずしく震えるような緊張感を楽しませてくれた。その後、クレイジー・ホースを率いてのエレクトリック・セットが続いた。
当時のクレイジー・ホースは、40年以上経ったいまでも、轟音が耳元に甦ってくるような迫力があった。ドラムスのラルフ・モリーナ、ベースのビリー・タルボット、ギターには新しく参加したばかりのフランク・サンペドロといった3人を従えて、ニール・ヤングは、「カウガール・イン・ザ・サンド」や「サザン・マン」といったお馴染みの曲を、あるいは発売されたばかりのアルバム『ズマ』から「コルテス・ザ・キラー」や「ドント・クライ・ノー・ティアーズ」を演奏した。
エレクトリック・セットでの圧巻は、なんと言っても、「ライク・ア・ハリケーン」だった。当時、初めて聴く曲だったが、巨大な扇風機を背後に、そこから吹きだす風に髪をなびかせながら、凄まじいギターを弾いた。時代という迷路に迷い込み、つまずいては態勢を立て直し、一歩一歩進んでいく。そういうぎこちない演奏だった。
ギターを弾く指からは鮮血がしたたり落ち、もっと流暢に弾くこともできるだろうに、と思えるようなところもあったが、こうでなければこの曲は、この歌は成立しない、そういうギターでもあり、演奏だった。そうやって彼が導く世界は、ぼくがそれまで経験したことのない、未知なる宇宙そのものだった。あんなギターを、ロックを体験するのは初めてだった。
終わったとき、誰もが黙りこくっていた、ような気がする。椅子から立ち上がるのさえできない人もいた。茫然としたまま、その余韻の中で、どうすればいいのか言葉を失い、次の行動さえも忘れてしまっていた。そしてそれを体験するために、翌日には再び、武道館に足を運んだ。それが、ニール・ヤングを初めて見た数日間の思い出だ。
大阪公演に3日間、一緒に行った友人は、昨年11月に亡くなって今はもういない。随分とぼくは、遠くにやってきた。そう考えると、ニール・ヤングは、いまだに元気に、ギターを弾き、歌っている。理にかなわないことには、どんな相手であろうと異議を申し立てる。その姿をみていると、ぼくも、相手が誰というわけではないが、闘うための体力を気力を培わなくてはと思ったりもする。
≪著者略歴≫
天辰保文(あまたつ・やすふみ):音楽評論家。音楽雑誌の編集を経て、ロックを中心に評論活動を行っている。北海道新聞、毎日新聞他、雑誌、webマガジン等々に寄稿、著書に『ゴールド・ラッシュのあとで』、『音が聞こえる』、『スーパースターの時代』等がある。
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