2017年03月05日

[第19回読者投稿コラム] 25年の時空を超えて、シバの「帰還」が帰還 text by 緒川あいみ

執筆者:読者投稿

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1月29日、シバが1992年にリリースしたアルバム「帰還」が再発された。

発売後、やむなく廃盤となってしまい、25年の時空を経て、いまオフノートから再び世に示される音盤。

このアルバムは、シーナ&ロケッツの鮎川誠や、知久寿焼、リクオらが参加し、梅津和時がプロデュースしている。

「謎の電車」「満州鉄道の夜」「死刑囚の唄」は、2006年に発表されたライヴ盤「新宿発・謎の電車」にも収録されているが、ソロライヴの雰囲気とはまた違う趣きを堪能できるはずだ。


時は遡り、1970年。

漫画家・永島慎二の内弟子を経て、日本語のブルーズを模索していた三橋誠青年は、吉祥寺の井の頭公園で「サンフランシスコ湾ブルース」を歌う若林純夫と出会い、そして高尾の国道20号線からヒッチハイク、京都の六曜社珈琲店で高田渡と運命的な出会いを遂げる。

そして第2回全日本フォークジャンボリーへの出演、URCでのデビューアルバム「青い空の日」、武蔵野タンポポ団、と音楽活動を深めていく。

高田渡やなぎら健壱が言うように、シバは日本で最初のブルーズマンである。

もちろんそれまでのロックやGSや歌謡曲にもブルースはあったのだが、日常の生身の言葉をブルースにしたのは、若き日のシバの孤高な実験だったはずだ。

初期の春一番コンサートに、英語で歌っていた憂歌団が出演できなかったことからも、シバや高田渡、若林純夫、岩井宏らの歌というものへの当時の思いを想像できる。

シバの盟友・高田渡は、その風貌や人柄から、仙人と呼ばれる。

しかし、高田渡は著書「バーボン・ストリート・ブルース」で語っているように、街の人間である。

三鷹・吉祥寺という人で賑わう郊外都市に暮らし、雑踏の中で人々を見つめている眼差しこそが、高田渡イズムだ。

対して、シバは中央線を西に下り、高尾の山の麓に暮らしている。

漫画とギターはもちろん、絵画、デザイン、園芸と多趣味な雰囲気は、高田渡より仙人らしい。


シュールでなおかつ郷愁を誘う歌詞と、土の匂いのするギター、そして魔術的なボーカル。

誰でも聴けばシバのブルースハープだとわかる。

そこにドラムスが入り、梅津和時のサキソフォンが彩りを激しく与えるのだから、たまらない。

シバの歌は、思い出を愛しているかのようで、見果てぬ明日を夢見ている。その夢は絶え間なく連弾する現在にほかならない。


「生きてれば、どんどんよくなりますから」

シバはライヴで、こんなふうに言ったことがある。

その飄々として、かつ漆黒の銀河を虎視眈々と見つめるかのような、誰にも似ていない音楽が、時空を超えて聴く者を魅了する。


この冬、「帰還」がまさに文字通り、この21世紀に帰還する。

帰還 シバ

武蔵野タンポポ団 BOX Box set 武蔵野たんぽぽ団

バーボン・ストリート・ブルース (ちくま文庫) 文庫 – 2008/4/9 高田 渡

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