2015年09月22日

日比谷公園に鳴り響いた日本ロックの新たな産声『10円コンサート』。

執筆者:中村俊夫

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今から46年前(1969年)の今日9月22日は、日比谷野外音楽堂で日本ロック史にその名を残す伝説の『10円コンサート』が開催された日。今や『NAONのYAON』をはじめ数多のロック・イベントが開催されている日比谷野音だが、1923(大正12)年に日比谷公園大音楽堂として建設されて以来、68年6月にスパイダース等が出演するGSイベントが開催されたのを除いて、ロック・バンドがここで演奏したのはこの『10円コンサート』が初めてだった。そして、それは日本初の本格的ロック・イベントでもあったのだ。


主催者は元フィンガーズのギタリストとして知られる成毛滋。69年8月15日から3日間にわたり米国ニューヨーク州で開催された歴史的野外ロックフェス『ウッドストック・フェスティバル』を体験し帰国した彼は、英米とは天地ほどの差がある日本の惨憺たるロック状況に唖然とする。GSブーム終息後、レッド・ツェッペリン等に代表される海外のロックの新しい潮流に反応した<ニューロック>と呼ばれる新たなバンド群が日本に台頭していたが、純粋に音楽を追求する高い理想を掲げながらも、まだロックが市民権を得ていない状況の中で一般的に認知されることは難しく、数少ない演奏の場を求めてアンダーグラウンドでの活動を強いられていたからである。さっそく成毛は、バンドや所属会社の枠を超えたミュージシャン同志の交流による技術向上と一般市民へのロック啓蒙を目的とした総決起集会的イベントを発案。ミュージシャン仲間で当時ゴールデン・カップスのキーボード奏者だったミッキー吉野と共に実現に向けて動き出した。


下の写真は当時作成されたB5版サイズの宣伝ビラ(当時はまだ<フライヤー>なんて言葉は無かった)。『ニューロック・ジャム・コンサート』が正式なイベント名で入場料は10円。ワンコイン・ライヴの元祖と言えるだろう。JR(当時の名称は国鉄)の最低運賃が30円だった時代にしても激安の入場料が話題を呼び、以後『10円コンサ-ト』の名称で広く知られていく。出演者として名を連ねているのは、発起人の成毛滋、ミッキー吉野の他、小林勝彦(フラワーズ)、陳信輝(パワー・ハウス)、デイヴ平尾(ゴールデン・カップス)、ザ・エム、ジャズ界から田畑貞一といった面々。ロック史に残る名盤『スーパー・セッション』(67年)リリース以来、海外ではレコード会社の枠を超えたアーティスト同志のライヴやレコーディングが盛んに行なわれていたが、日本はまだまだ閉鎖的で事務所・レコード会社の異なるミュージシャン同志の共演など御法度な時代だった。そんな四面楚歌の中、成毛たちは前代未聞のイベントを企画・実行したのである。実際に出演依頼するにも各々の所属会社からの妨害等もあったという。


また、当時バンドのライヴの場としてはディスコ、ジャズ喫茶などがあったが、それらのブッキングにはすべてプロダクションや興行会社などが介在して成り立つものであり、成毛のように歌手やミュージシャン個人が自らの手で自主興行を行なった前例は皆無だった。ロック公演が前代未聞の日比谷野音を会場に選んだのも、介在する芸能事務所や興行会社が無く、貸出料金も一般ホールに比べて安いという利点からと思われる。もちろん成毛が規模は異なるものの、ウッドストックのような野外でのロック・コンサートを指標にしていたことも大きな理由のひとつだったであろうことは容易に想像がつく。

 

1969年9月22日午後6時、小雨パラつく中、日比谷野音で『ニューロック・ジャム・コンサート』が開催される。日比谷公園に鳴り響いた大音響のサウンドは、まさに日本ロックの新たな<産声>だった。当日の観客数は約1200人。全員から10円の入場料を集めたとしても単純計算で12000円ほどの収入というわけで、会場の使用料他の経費(日本ロックの<出産費用>と言っても良い)を考えても当然大赤字。その補填は成毛個人が自腹で行なったようである。翌10月30日には、同じく日比谷野音で内田裕也主催による第2回『10円コンサート』が開催された。出演者はフラワーズ、ハプニングス・フォー、パワー・ハウス、柳田ヒロ、ザ・エムなどの他、タイガースの森本太郎、岸部修三(現・一徳)、元カーナビーツのアイ高野が飛び入り参加している。観客数は約5000人。まだ日本では珍しいロックのコンサートという希少性、そして破格の激安入場料という話題性が功を奏したのかも知れない。

以後、日比谷野音では大小様々なロック・イベントが開催されるようになり、70年代以降はロック・アーティストにとって、そのステージに立つことはひとつのステイタスとなっていく。71年10月5日にリリースされた、おそらくロック系では初の日比谷野音ライヴ・レコーディング・アルバムであろう『ライヴ!!ザ・ゴールデン・カップス』をはじめ、火事騒動となった75年4月13日のキャロルの解散コンサートを収録した『燃えつきる=キャロル・ラスト・ライヴ』(75年5月15日発売)、72年9月19日のフライド・エッグ解散コンサートを収めた『グッバイ・フライド・エッグ』(72年11月25日)、キャロル解散後初の矢沢永吉の野音コンサートを収録した『ザ・スター・イン・ヒビヤ』(76年11月21日発売)、79年7月14日のJohnny,Louis & Charデビュー無料コンサートを収録した『Free Spirit』など、日比谷野音ライヴの模様を音盤に刻んだ名アルバムも数多く誕生し、<野音>は日本ロックの聖地となっていった。

 


日比谷公園に日本ロックの新たな産声が鳴り響いてから44年の歳月が流れた2013年9月22日、日比谷野音誕生90周年を記念して平成版『10円コンサート』が開催された。タイトルどおりJR最低運賃が130円となった現在に往年と変わらぬ10円という入場料。すでに成毛滋は故人となってしまったが、当時の発起人のひとりであるミッキー吉野がプロデュースを手がけ、Char、Sheena & Rokkets、サンボマスターなど平成ロック・シーンの最前線で活躍中のアーティストたちと共に、44年前の当事者であるザ・エム、ゴールデン・カップス、内田裕也も出演。かつての『10円コンサート』を知る世代であろうオールド・ファンから平成生まれ世代まで、会場をを埋め尽くした新旧オーディエンスは、今や中高年の年齢に達した日本ロックの成熟ぶりを存分にエンジョイしたのである。

矢沢永吉 「THE STAR IN HIBIYA」 写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト

ソニーミュージック 矢沢永吉公式サイトはこちら>

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