2015年10月28日

八代亜紀が歌うB.B.キングの「The Thrill Is Gone」…ブルースと対峙して見せたニュー・アルバム『哀歌-aiuta-』とは

執筆者:増渕英紀

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八代亜紀がブルース・アルバムをリリースするなんて言うと、誰もがエッ!?と奇っ怪に思うかも知れない。が、彼女実は2012年に『夜のアルバム』なるジャズ・アルバムをリリースしていて、世界75ヶ国で配信されるという実績を持つ。例えば、ちあきなおみや坂本冬実、由紀さおりらがそれぞれに新しいことにチャレンジしているのと同様に、八代亜紀=演歌という古い図式はもはや成り立たない。


実際、スタンダードを中心にジャズ・アレンジで聴かせた『夜のアルバム』は素晴らしい出来映えだった。洋楽曲は勿論のこと、「五木の子守唄」と「いそしぎ」を繋げてメドレーにした作品には度肝を抜かれたものだった。もうここまで来ると、かつてジャズから民謡まで自在に往き来して歌いこなした江利チエミの域に達している。


そんな彼女が今度はブルースと対峙して見せたのが新作の『哀歌-aiuta-』だ。とはいっても別に大上段に振りかぶったような大仰なものではないし、奇をてらったり、ギンギンのブルース・ロックを演っているわけでもない。さり気ない自然体で“あらっ!知らなかったの?アタシ昔からブルースを歌って来たのよ”とでも言いたげな風情で、そこがイイ!


恐らく特別なことを演っているという意識もないのだろう。何故ならば、多少ジャンルは変わっても同じ歌であることに変わりはないのだから。構えず、肩に余分な力が入っていない抑制の効いた歌唱で文字通り、深く静かにブルージーに歌い語る。たぶん、それが狙いなのだろう。アレンジもオリジナルやポピュラーになったスタイルを踏襲していて、殊更目立つような変わったアレンジを施していない。


収録曲は、ベッシー・スミスやサッチモなどで知られるクラシックな「St. Lous Blues」に始まり、アニマルズや浅川マキでも知られるトラッドの「朝日のあたる家」、更には淡谷のり子で知られる「別れのブルース」のような歌謡ブルースまで、スタンダード的な曲もあるが、一方では選曲の妙もある。中でも、横山剣、中村中作のオリジナルがまた面白い。


選曲という点では日本ではあまり知られていない72年作と、比較的新しい「Bensonhurst Blues」を取り上げているのがシブイ。この曲はアメリカではなくヨーロッパでポピュラーな楽曲。それも81年にアラン・ドロンが主演、監督したフィルム・ノワールな映画『危険なささやき』のサントラ盤(歌:オスカー・ベントン)としてリリースされたものだ。英語の歌詞だが、アコーディオンをフィーチャーしたシャンソン風な味わいで聴いていると、ピアフがブルースを歌ったらこんなかも知れないなどと思わせる。


一方、オリジナルの2曲は共に歌謡曲風だが、現代社会の断面を捉えたようなリアルな詩が秀逸で、味わい深い。いずれも巷で今を生きる庶民の日々の営みを綴ったオリジナルのブルースだ。音楽的なスタイルとしてのブルースではなく、日本の民謡と同じく本質的なという意味でだが...。



とは言え、前出の収録曲からも判る通り、どブルースも...。B.B.キングでお馴染みの「The Thrill Is Gone」なぞは、ギターが入って来た瞬間にオッ!とのけぞらせる。それもその筈、何と元ウエストロードの山岸潤史がソロを弾いているから、それだけで惹かれてしまう!そして極めつきはロバート・ジョンソンのブルース・スタンダード「Sweet Home Chicago」を故郷の熊本に置き換えて日本語で歌われる「Sweet Home Kumamoto」だろうか。球磨川、不知火海の自然を讃えた詩は、環境保全から日本で初めて撤去された荒瀬ダムと、反対運動が起きている川辺川ダム建設問題を見据えたメッセージ・ソングでもあるのか。いずれにしても最高に楽しめる逸品だと思う。
哀歌-aiuta-

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