2016年07月18日
スポンサーリンク
2016年07月18日
1970年7月18日、東京都杉並区のとある高校でのこと。校庭で体育の授業を受けていた生徒たちが、突然目やのどの痛み、頭痛などを訴え、40名以上が病院へ運ばれるという事件が発生した。東京都公害研究所の調査により、窒素酸化物が紫外線によって光化学反応を起こし、有毒な物質に変化する、いわゆる「光化学スモッグ」がこの怪現象の原因であることが判明する。汚染された大気が太陽の光によって更なる強い毒に変化するという驚きのメカニズムと、「見えない“公害”が空から降ってくる」という恐怖に、多くの人が強い衝撃を受けたこの日……つまり、今日7月18日は、「光化学スモッグの日」とされている。
この時期、トップクラスの社会的関心事として連日新聞紙面を賑わせていた「公害」。その化身たる公害怪獣が登場する、まさに時流が生み出したような怪獣映画がある。東宝制作による"ゴジラ"シリーズ第11作『ゴジラ対ヘドラ』である。テレビでの怪獣ブームに比して、人気が下降気味だった劇場用ゴジラシリーズを、斬新な切り口で再生させたいと考えた東宝の田中友幸プロデューサーは、長く助監督の位置にあった坂野義光を監督に抜擢。坂野は、当時最も広く知られた社会悪=「公害」を怪獣化させる着想を、1970年7月18日の、あの光化学スモッグ事件から得たのだという。邦画界全体が斜陽化する中での低予算、わずか5週間という短い製作期間、ゴジラが空を飛ぶ描写をめぐってのプロデューサーとの意見対立……等々の逆風に晒されながらもフィルムは完成し、あの事件からほぼ一年後の1971年7月24日、「東宝チャンピオンまつり」の中の一編として封切られている。
そして『ゴジラ対ヘドラ』といえば、「かえせ!太陽を」(作詞:坂野義光、作曲:眞鍋理一郎、編曲:高田弘、歌:麻里圭子 with ハニー・ナイツ&ムーンドロップス)という強烈なインパクトを放つ主題歌を忘れることができない。1960~70年代の環境問題において、バイブルとさえ言われたレイチェル・カーソンの名著『沈黙の春』にインスパイアされた啓示的な歌詞や、化学物質の名前が次々と列挙される歌い出し、かえせ、かえせと呪詛のように繰り返されるコール&レスポンスなど、作詞も担当している坂野監督のメッセージが徹底的に注入された、一度聞いたら忘れられない主題歌である。メインヴォーカルの麻里圭子は、1969年の人気テレビドラマ『サインはV』の主題歌でも知られ、本編にもヒロイン役で出演している。映画のオープニングでは、麻里の柔らかなヴォーカルが印象的な淡々としたマーチ風のアレンジだが、この曲の真骨頂は、何と言っても劇中でかかるもう一つのヴァージョンのほうにこそある。
ストーリー半ばに登場する退廃的なゴーゴー喫茶。極彩色で幻覚風の映像が投影され、ボディペインティング(風)の麻里が歌い踊る劇中歌ヴァージョンの「かえせ!太陽を」は、ワウ・ギターが荒れ狂う、サイケデリック・ロックへとリアレンジされている。麻里のダンス、ヴォーカル、シュールな映像、バンド演奏の切れ味、無軌道・無関心・無責任な「しらけ世代」の若者像、そして「公害」……と、このシーンからは70年代初頭特有の淀んだ空気がとめどなくあふれ出している。日本特撮史上、最もロックな映画/ロックなシーンと言えるだろう。惜しむらくは、ヘドラ襲来のパニックで演奏が中断してしまうこと。このライヴシーンに魅了された誰しもが全長版を聴きたいと願うはずである。実際、2013年にはガレージバンド:キノコホテルが「かえせ!太陽を」を、この劇中ヴァージョンに準じた雰囲気で見事にカヴァーしていたりもする。(アレンジは異なるものの、麻里圭子自身も2006年にセルフカヴァー版を発表している。)
本多猪四郎や福田純といった名監督の作品が居並ぶ昭和ゴジラ映画の中でひときわ異彩を放ち、なにかと「異色作」「迷作」扱いされることの多い『ゴジラ対ヘドラ』。だが、核開発競争による環境汚染=人類のエゴに対する自然界の怒りをテーマに誕生した初代『ゴジラ』(1954)のメッセージ性を、最も強く意識し、継承しているのは、他ならぬこの作品なのではないか?……と、近年では本作を高く評価する向きも多い。
来週7/29には、ゴジラシリーズ最新作、『シン・ゴジラ』(総監督・脚本・編集:庵野秀明)の封切りが控えている。劇場に足を運ぶ前に、今一度、『ゴジラ対ヘドラ』の肌触りをDVD等で確かめておくのも一興だろう。本作を「迷作」と取るか、ゴジラシリーズ「中興の祖」と取るかによって、『シン・ゴジラ』の見え方も変わってくるのではないだろうか。
日本のテレビアニメ黎明期から現在に至るまで、絶えることなく続いている一大ジャンルである「ロボットアニメ」。『鉄腕アトム』(1963)が自律型、『鉄人28号』(1963)がリモコン型のロボットであ...
昨年2016年、夏の話題をさらった映画『シン・ゴジラ』(東宝、2016年7月29日公開、総監督:庵野秀明/監督:樋口真嗣)。今年3月に発表された「第40回日本アカデミー賞」では、作品賞、監督賞、...
「スポ根ブーム」の先駆けとなった不朽の名作『巨人の星』がよみうりテレビでアニメ化され、その第1話「めざせ栄光の星」が放送されたのは1968年3月30日。本日から49年前のことである。text b...
昭和のテレビ音楽の世界に大きな足跡を残した作曲家:宇野誠一郎。2月27日は、彼の誕生日。本日で生誕90周年を迎えることになる。日曜日の夜の寂寥感のことを「サザエさん症候群」などと呼ぶことがあるが...
1944年(昭和19年)の本日1月4日は、もう絶対破られないであろうと思われる日本のシングルレコード(CD含む)史上最も売れた一枚、「およげ! たいやきくん」の歌唱者、子門真人の誕生日である。 ...
円谷プロダクションによるウルトラシリーズ(空想特撮シリーズ)の第1作『ウルトラQ』。映画館でしか出会えなかった「怪獣」を毎週テレビで観ることができる…。当時の子ども達のこうした夢を最初に実現させ...
今年の夏に封切られた『シン・ゴジラ』は大ヒットとなり、現在も動員数を増やし続けている。本日、11月3日は、すべてのゴジラ作品の礎、第1作目の『ゴジラ』が封切られた日として、「ゴジラの日」となる。...
様々な特殊能力を持った9人のサイボーグの活躍を描いた、石ノ森章太郎による萬画作品、『サイボーグ009』。自らを生み出した組織「ブラックゴースト」との闘いを描いた、いわゆる「誕生編」を皮切りに、長...
1968年9月8日、円谷プロダクション制作の特撮テレビ番組『ウルトラセブン』が最終回を迎えた。そのウルトラセブンの中でも忘れがたいのは、なんといっても菱見百合子(現:ひし美ゆり子)が演じたウルト...
今日、7月10日はウルトラマンが初めてテレビに登場した日として「ウルトラマンの日」に制定されている。しかしTBSの番組『ウルトラマン』の第1話「ウルトラ作戦第一号」が放送されたのは1966年7月...
本日はゴジラの映画音楽で知られる伊福部昭の誕生日。生誕101年となる。この春、新宿歌舞伎町に出現した実物大のゴジラ・ヘッドをご覧になった方も多いだろう。定時になると地上50メートルの高さにあるゴ...