2017年01月02日
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2017年01月02日
昨年2016年は、ウルトラマン誕生50周年として様々な祝賀イベントや記念商品が登場し、かつての怪獣少年たちを大いに騒がせていた。しかし同じく50年前に“ウルトラ”の始祖たるテレビ番組が誕生していたのに、世間があまり注目していないことにヤキモキしていた諸兄も多いのではないだろうか。円谷プロダクションによるウルトラシリーズ(空想特撮シリーズ)の第1作『ウルトラQ』。映画館でしか出会えなかった「怪獣」を毎週テレビで観ることができる……。当時の子ども達のこうした夢を最初に実現させたのは、『ウルトラマン』ではなく、紛れもなくこの番組なのだ。1月2日は『ウルトラQ』放送開始の日。今日で51年を経過したことになる。
企画の発端は、1963年頃まで遡るという。当時、アメリカで人気を博していたSFテレビドラマ『トワイライトゾーン』『アウター・リミッツ』などにインスパイアされた硬派なSF怪奇シリーズとして、当初は『UNBALANCE(アンバランス)』の名で円谷プロダクションがTBSと検討を進めていた。しかし、あの『ゴジラ』の円谷英二が監修するテレビシリーズならば、やはり怪獣中心の番組のほうが、「子ども」という視聴者層をより明確に意識した番組にできるはず……とのTBS側からの要請があり、怪獣路線に大きく舵が切られることになる。番組名も、1964年の東京オリンピック体操競技で注目を集めていた、高難易度の技を示す言葉「ウルトラC」をもじって『ウルトラQ』と変更された。これらの路線変更がなければ、後番組『ウルトラマン』が作られることも、ウルトラマンシリーズが50年を超えて製作され続けることも無く、“巨大なヒーローが怪獣と闘う”という特撮番組の王道スタイルすらも生まれなかったかもしれない。『ウルトラQ』制作序盤のこの決断は、テレビの歴史を大きく変えたのである。
2015年07月10日付の『大人のMusic Calendar』でも既に取り上げているように、『ウルトラQ』『ウルトラマン』の音楽を担当したのは作曲家:宮内国郎だ。1932年東京世田谷生まれ。子どもの頃にジョージ・ガーシュウィンの伝記映画「アメリカ交響楽」を見てジャズに目覚め、国立音楽大学附属高等学校に入学。当初はトランペット奏者を目指すが、後に作曲家に転向し、ニッポン放送を皮切りにラジオ、テレビ、映画の分野での作曲活動を広げていく。
『ウルトラQ』に宮内が残したスコアは、それまでの怪獣映画音楽の常道とは異なり、企画当初のイメージにあった『トワイライトゾーン』『アウター・リミッツ』のような大人の雰囲気に寄せた、コンボ編成を中心としたスマートなジャズ、および、得意の管楽器をフィーチャーした明快なサウンドが特徴だ。怪獣対ヒーローの大格闘や、怪獣に対抗する組織の勇壮なテーマ、スーパーメカの発進などを彩る、後の特撮音楽の典型が宮内によって生み出されるのは『ウルトラマン』からだが、怪獣を取り巻く怪奇、恐怖、哀愁、それと触れ合う人間(特に子どもたち)の心の機微を、繊細な音楽で描き出す手腕は、すでに『ウルトラQ』で十二分に発揮されていた。
マーブル模様がゆっくりと動いて「ウルトラQ」の文字が浮かび上がる番組冒頭のメインタイトル。その映像に負けないほどアヴァンギャルドなあのサウンドは、宮内の作曲に基づき、当時、テレビ・映画音楽業界で特殊楽器請負人として暗躍(?)していた音楽家:渡辺淳が用意した、キハーダ(ロバや馬の下あごの骨を乾燥させた中南米の打楽器)、胡弓、ウッドブロックなどによって編み出されたもの。未知の世界への扉が開くかのような、あの「この世ならざる音」も、宮内以下、音楽・音響スタッフの創意工夫によって作り出されたものなのだ。
『ウルトラQ』は、放送開始前にほぼ全話の制作が完了したいたこともあり、「制作順」と「放送順」が大きく異なっている。また、音楽においても、汎用音楽と個別エピソード用音楽が混在しており、70年代末に始まるレコード・CD商品化の過程でも、その全貌を明らかにする作業は困難を極め、今なお、マスターテープ未発見の音楽も存在している。これら『ウルトラQ』音楽解明の現時点での最も進んだ研究成果として、また、宮内国郎音楽を集大成した全集として、CD-BOX「ウルトラQ ウルトラマン 快獣ブースカ 宮内国郎の世界」が昨年10月に発売されている。
宮内によって作られ、『ウルトラQ』劇中で使用された音楽はもちろんのこと、劇中に何度も転用された、宮内の手による東宝特撮映画『ガス人間第一号』(1960)の全音楽も合わせて収録されている。また、制作・録音されたものの、『ウルトラQ』本編では未使用に終わった数々の楽曲も収録。これらは当時、絵本や絵物語レコードとして発売された各種フォノシート(ソノシート)ドラマや、『ウルトラファイト』(1970)などの他番組に転用された経緯もあり、本編未使用といえども当時の怪獣少年にとっては忘れがたい音楽なのだ。さらに、マスターテープ未発見の音源は、MEテープ(映像作品の音楽(Music)と効果音(Effect)のみを収録した音声テープ。輸出用フィルムの制作を意識し、後から別言語(吹き替え)でのオーバーダビングができるようにしたもの。)から該当部分を抜き出し、「未発見楽曲集」として収録するという念の入れよう。まさに執念の産物である。
近年、映画、特撮、アニメーション等の制作素材や関係資料の散逸を憂い、それらを文化財として保全・アーカイブする試みが始まっているが、音楽資料もまた然り。マスターテープの保全だけでなく、こうした地道な研究努力による全貌解明や、商品化を通じたその成果の一般共有が強く望まれている。私たちが子どもの頃に大好きだった忘れがたい作品たちは、私たちの手によってしっかりとその価値を評価し、文化として後世に引き渡すべきなのだ。「懐かしさ」だけを消費して、気が付けばなにも残っていなかった……という末路だけは、なんとしても避けなければならない。
宮内国郎は、2006年に74歳で既に鬼籍に入っている。『ウルトラQ』『ウルトラマン』から50年という時間の重みは、これらのアーカイブ作業が「待ったなし」の状況であることを、まさしく物語っているとは言えないだろうか。
≪著者略歴≫
不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター 、 CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。10/5発売CD「水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス」選曲原案およびインタビューを担当
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