2015年09月08日

永遠のあこがれを込めて:友里アンヌ隊員へ…47年前の今日、特撮テレビ番組『ウルトラセブン』が最終回を迎えた。

執筆者:不破了三

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47年前の今日、君は見ただろうか? 西の空に明けの明星が輝く頃、一つの光が宇宙へ飛んでいくのを……。そう、1968年9月8日は、円谷プロダクション制作の特撮テレビ番組『ウルトラセブン』が最終回を迎えた日なのだ。


前作『ウルトラマン』のフォーマットを受け継ぎつつも、宇宙人による侵略と、それに立ち向かうモロボシ・ダン=ウルトラセブンという図式が強化され、質の高いSFドラマとしての風格を持つに至った『ウルトラセブン』。長きにわたるウルトラマン・シリーズの中でも、最高レベルの人気を誇る作品だ。


そして「大人のMusic Walker/Music Calendar」」世代の男性諸氏にとって忘れがたいのは、なんといっても菱見百合子(現:ひし美ゆり子)が演じたウルトラ警備隊の紅一点、友里アンヌ隊員の存在だろう。当時の少年たちは皆、ウルトラ警備隊隊員服のアンヌの身のこなしや、時折見られるナース服姿を、訳の分からないフワフワした気持ちで見守っていたはずだ。シリーズ中、ダンとアンヌの仲を直接に物語るようなエピソードはないが、2人が固い信頼関係(愛?)で結ばれているのは空気として感じることができた。それが一つの形となって現れるのが最終回「第49話:史上最大の侵略(後編)」のクライマックスだ。


「アンヌ、僕は、僕はね… 人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」 ダンが自らの正体をアンヌに告白した瞬間、世界は光に包まれ、ダンとアンヌはシルエットに沈み、風に髪がなびく。「ビックリしただろう…」というダンに対して、別段慌てふためく様子もなく、一息飲み込むと、「人間であろうと、宇宙人であろうと、ダンはダンに変わりはないじゃないの」と言い放つアンヌ。一瞬ですべてを理解し、受け入れる、愛とも母性とも取れる、このアンヌの包容力。しかし命を賭してセブンに変身し、最後の闘いに向かおうとするダンに対しては、感情がはじけ、思わず「待ってダン!行かないで!」と叫んでしまう。母のような慈愛を持ち、恋人のように身近で、妹のようにカワイらしい、我われの “永遠のあこがれ” のアンヌ像は、ここに完成したのだ。


そして、この衝撃の告白の瞬間、いつもの劇中音楽とは明らかに耳ざわりの異なる、ピアノが強く前に出た音楽が流れ始めたのをご記憶だろうか。『ウルトラセブン』の音楽を担当していたのは、作曲家:冬木透。しかし、この曲は冬木の曲ではない。

ピアノ:ディヌ・リパッティ、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、演奏:フィルハーモニア管弦楽団(英)によって1948年に録音された、シューマン作曲「ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54 第一楽章」 …… これがこの音楽の正体だ。


最大の見せ場で、敢えて一般に流通しているクラシック音楽のレコード、しかも20年も前の音源が使用されたのだ。実はこの判断は冬木自身によるもの。天啓のような閃きがあったのかと思いきや、もっともフィルムと溶け合うのは、どの曲か、どの演奏家のものか、考えに考えぬいた末のセレクトだという。冬木は作曲活動を行いつつ、TBS社員として7年間、音響効果を担当していたという異色の経歴を持つ。『ウルトラセブン』でも主題歌や劇中音楽の作編曲だけでなく、どの場面にどの音楽を当てるのかを考える「選曲」の仕事も同時に担当していた。ダンとアンヌのドラマの結末を飾ったこの伝説的な選曲は、冬木の作曲家としてのセンスと、効果マンとしての職人的こだわりがあってこそ実現したのである。


ダンが「さよならアンヌ!」と言って地球を去ってから47年。その時に流れていたこの音楽を聴きながら、もう一度、明星が輝く空を見上げてみたくなる…… そんな夜明けがやってくる。

 

*参考文献:『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』 (青山通/アルテスパブリッシング/2013)

菱見百合子

ひし美ゆり子

ウルトラセブン

ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた

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