2017年02月27日
スポンサーリンク
2017年02月27日
昭和のテレビ音楽の世界に大きな足跡を残した作曲家:宇野誠一郎。2月27日は、彼の誕生日。本日で生誕90周年を迎えることになる。
いわゆるクラシック分野の音楽家と違い、テレビ音楽の世界で名を成した作曲家には、音楽大学ではなく、一般の大学で学びながら音楽を志した人物が多いのが興味深いところ。生き馬の目を抜くような芸能界に隣接し、常に時流を掴み続ける必要のあるテレビ業界で生き残るには、純粋培養よりも雑草魂が功を奏すといったところだろうか。宇野誠一郎もその一人。テレビ音楽界の重鎮、小林亜星、冨田勲、山下毅雄、小森昭宏、大野雄二、鈴木宏昌らが慶応義塾大学出身であるのに対し、彼は珍しい早稲田大学出身者。文学部仏文科卒という経歴を持つ。実際、音楽評論家:園部三郎に進学先を相談したところ、音楽大学ではなく一般の大学へ行き、見識を広めることを進められたというエピソードも伝えられている。
とはいえ、池内友次郎、齋藤秀雄、安部幸明、平尾貴四男らの名匠たちに作曲、指揮、管弦楽法などを学んだという十分すぎるほどの本格派であり、大学在学中から児童劇団への劇伴音楽の提供を始めるなど、早い時期から着実に作曲家としての経験を積み重ねている。1956年には、NHKにおける人形劇番組の草分けである『チロリン村とくるみの木』で音楽を担当。8年間に及ぶこの番組での音楽制作の経験が、子どものための音楽に対する情熱を培い、かつ、優美で耳優しく、ジャズの香りが漂う小粋なサウンド……という宇野ならではの作風を決定づけていくことになる。
そして、『チロリン村とくるみの木』の後番組として1964年に開始されるのが、おなじく人形劇の『ひょっこりひょうたん島』である。主題歌「ひょっこりひょうたん島」(作詞:井上ひさし、山元護久、作編曲:宇野誠一郎、歌:前川陽子とひばり児童合唱団)が、昭和テレビ音楽史における大スタンダードソングになったことはもはや説明不要だが、劇中でミュージカル風に歌われる歌曲の制作も一手に引き受け、膨大な数の挿入歌を生み出していることも忘れてはならないだろう。翌1965年には手塚治虫原作のテレビアニメ『W3(ワンダースリー)』の音楽を担当。続く『悟空の大冒険』(1967)、『ふしぎなメルモ』(1971)なども合わせ、手塚アニメ全盛期の音楽を冨田勲とともに支えただけでなく、新興フォーマットであった「テレビアニメ」の音楽のあり方そのものに対しても、雛型を提示し、礎を築いた音楽家なのである。
さらに、1969年に放送されたテレビアニメ『ムーミン(第1作)』から続く「カルピスまんが劇場」枠(後の「世界名作劇場」へと続く、フジテレビ日曜7時半枠の番組枠)の作品群によって、宇野によるテレビ音楽の世界は完成の域に達していく。慈愛にあふれた主題歌「ムーミンのテーマ」に代表される、優しさとユーモアに包まれた歌の数々は、当時、テレビ音楽頒布の主要メディアであったソノシートやドラマ付きレコードなどを通じて、子どものいる多くの家庭に浸透し、親しまれていく。続く、『アンデルセン物語』(1971)、『ムーミン(第2作)』(1972)、『山ねずみロッキーチャック』(1973)でも宇野が音楽を担当していることから、フジテレビ日曜7時半枠のサウンドイメージとして、『アルプスの少女ハイジ』(1974)以降の渡辺岳夫の音よりも、むしろ宇野の音楽世界を強く思い描く世代も、少なからずいるはずである。
ところで、日曜日の夜になんとなく感じてしまう寂寥感のことを「サザエさん症候群」などと呼ぶことがあるが、この日曜日独特の「さびしさ」に、宇野の音楽イメージが結びついている人も多いはず。筆者もその一人だ。その理由は、宇野が生み出した「カルピスまんが劇場」の、「ちいさなミイ」、「ムーミンはきのう」、「キャンティのうた」、「ズッコのうた」、「ロッキーとポリー」といったエンディングテーマたちが、美しいほどの物悲しさを醸し出していたからだ。それこそ、陽気なサザエさんが生み出す“ギャップ”が憂鬱を助長する……などという「サザエさん症候群」の理由とは比較にならないほどの、本物の「さびしさ」。この音楽を毎週浴びていた我われにとって、日曜夜の「さびしさ」とは、「休日が終わってしまう…」「明日から学校だ…」といった単純な憂鬱さではなかったのだ。深い夜の闇に落ちる恐怖があり、それでいて、夢へと誘われるような期待感もある。物悲しく憂鬱でありならも、美しくあたたかいぬくもりにあふれているような……。本当に複雑で不思議な気持ちを湛えた「さびしさ」だった。「カルピスまんが劇場」世代の諸兄には、宇野誠一郎の音楽が湛えていた、この「あたたかいさびしさ」を共感してもらえるのではないだろうか。
2003年2月1日のNHK開局50周年記念番組『あなたとともに50年:今日はテレビの誕生日』には元気な姿で出演し、「ひょっこりひょうたん島」の思い出などをにこやかに語っていた宇野誠一郎だが、残念なことに2011年に心不全のため死去している。享年84歳であった。
CDの時代に入って以降、宇野誠一郎のテレビ作品音源は長い間復刻が滞り、気軽に聴くことがむずかしい状態の曲が多く存在していたが、近年、作品集CDなども整いつつあり、今再び、その功績が評価されつつある。ぜひCDを手に取って、あの懐かしき「あたたかいさびしさ」の世界に今一度浸ってみてほしい。
≪著者略歴≫
不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター 、 CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。10/5発売CD「水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス」選曲原案およびインタビューを担当。
本日、2月9日は、漫画家・アニメーション作家の手塚治虫の命日である。享年60歳という信じられない若さで「マンガの神様」が天に召されてから、いつの間にか29年の月日が流れたということにも、あらため...
2月8日は「変わるわよ!」そう、『キューティーハニー』の主人公・如月ハニーの誕生日である。アニメ作品『キューティーハニー』の放映が開始されたのは、1973年10月13日のこと。当時の「アクション...
日本のテレビアニメ黎明期から現在に至るまで、絶えることなく続いている一大ジャンルである「ロボットアニメ」。『鉄腕アトム』(1963)が自律型、『鉄人28号』(1963)がリモコン型のロボットであ...
「スポ根ブーム」の先駆けとなった不朽の名作『巨人の星』がよみうりテレビでアニメ化され、その第1話「めざせ栄光の星」が放送されたのは1968年3月30日。本日から49年前のことである。text b...
1944年(昭和19年)の本日1月4日は、もう絶対破られないであろうと思われる日本のシングルレコード(CD含む)史上最も売れた一枚、「およげ! たいやきくん」の歌唱者、子門真人の誕生日である。 ...
円谷プロダクションによるウルトラシリーズ(空想特撮シリーズ)の第1作『ウルトラQ』。映画館でしか出会えなかった「怪獣」を毎週テレビで観ることができる…。当時の子ども達のこうした夢を最初に実現させ...
今年の夏に封切られた『シン・ゴジラ』は大ヒットとなり、現在も動員数を増やし続けている。本日、11月3日は、すべてのゴジラ作品の礎、第1作目の『ゴジラ』が封切られた日として、「ゴジラの日」となる。...
様々な特殊能力を持った9人のサイボーグの活躍を描いた、石ノ森章太郎による萬画作品、『サイボーグ009』。自らを生み出した組織「ブラックゴースト」との闘いを描いた、いわゆる「誕生編」を皮切りに、長...
今日7月18日は、「光化学スモッグの日」とされている。1970年初頭、トップクラスの社会的関心事として連日新聞紙面を賑わせていた「公害」。その化身たる公害怪獣が登場する、まさに時流が生み出したよ...
1932年4月22日は、世界的に知られるシンセサイザー音楽のパイオニア、冨田勲が生まれた日。東京で医師の長男として生まれた冨田は、戦後から作曲家として創作活動を始め、ポピュラー音楽から交響曲まで...
情念深い男女の恋愛を描いた歌謡曲の作詞に才能を揮い、作家、脚本家、政治評論家など多くの顔を持って活躍した川内康範。昭和30~40年代を中心に、映画界、テレビ界、歌謡界に及ぼした功績は計り知れない...
1977年、テレビアニメ『キャンディ・キャンディ』の主題歌が空前の大ヒット(120万枚超)となり、ここからテレビまんが主題歌は、「アニメソング」という大きなマーケットとして一躍脚光を浴びて急成長...
『マジンガーZ』での「マジンガ~~~ゼット!」と裏返った声による雄叫びにより、アニソン界に激昂シャウトをもたらした水木一郎。本日はそのアニソン界のロバート・プラント生誕の日。今年で68歳となる。...
新春1月5日は、アニメーション映画監督:宮崎駿の誕生日である。緻密な画面構成と明快なストーリー展開、古き良き「まんが映画」の躍動感を現代に伝える「動き」を大切にしたアニメーションづくりを信条とす...
本日はゴジラの映画音楽で知られる伊福部昭の誕生日。生誕101年となる。この春、新宿歌舞伎町に出現した実物大のゴジラ・ヘッドをご覧になった方も多いだろう。定時になると地上50メートルの高さにあるゴ...