2017年09月14日

マンボの王様ペレス・プラードと日本のマンボ・ブーム

執筆者:鈴木啓之

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日本では平成元年にあたる1989年の9月14日、かつて“マンボの王様”と呼ばれて一世を風靡したペレス・プラードが亡くなった。72歳での旅立ちだった。1950年代、世界中にマンボ・ブームを巻き起こすきっかけとなった人物で、ペレス・ブラード楽団を興して「エル・マンボ」や「マンボNo.5」をはじめとする数々のヒットを世に送り出した。来日の機会も多く、その度に公演が行われて多くの観客を動員している。音楽のみにとどまらず、ファッションや文化にも波及して社会現象となったマンボ・ブームは、流行歌の世界にも大きな相当な影響をもたらした。その後、毎年ニューリズムを取り入れた歌謡曲が作られるようになるのも、マンボ・ブームが発端であった。


ペレス・プラードは正式名をダマソ・ペレス・プラードといい、1916年にキューバで生まれ育った。幼少時からクラシックピアノを学んだ後、やがてポピュラーへ転向して地元のクラブでピアノやオルガンを弾くようになったという。1940年代には、ルンバにジャズ要素を加味した新しいリズム、マンボを積極的に演奏する様になり、1948年にメキシコへ移住。ぺレス・プラード楽団を結成して人気を得る。最初のヒット曲「エル・マンボ」は、文化放送『S番アワー』のオープニング・テーマに使われたことで日本人にも馴染み深い曲となった。最も売れたシングルは1958年の自作曲「パトリシア」であったそうだが、なんといっても有名なのは「マンボNo.5」だろう。後に『スターどっきり㊙報告』で多用された例のアレである。バラエティ番組に流用された例でいえば、『8時だョ!全員集合』で72~3年に加藤茶が流行らせたギャグ“チョットだけよ”の際に使われた「タブー」も、ペレス・プラード楽団のもので、番組のイラストをあしらったシングル盤が再発売されてリバイバル・ヒットを記録している。


日本にも及んだマンボのブームが盛り上がりを見せたのは1955年前後で、1956年にはペレス・プラード楽団が初来日を果たしている。歌声でマンボ・ブームを牽引した歌手の筆頭に挙げられるのは、当時の若手ポップス・シンガーとして活躍していた江利チエミと雪村いづみ。「パパはマンボがお好き」「マンボ・イタリアーノ」などの軽快なナンバーを歌い、マンボと共に人気を博したキューバ産のリズム、チャチャチャがフィーチャーされた代表作「チャチャチャは素晴らしい」は、チエミ、いづみ、それぞれが歌ったレコードが出されている。ブーム渦中に公開された江利チエミの主演映画『裏町のお転婆娘』は主題歌をはじめ、随所にマンボのアレンジが顔を出す。


そしてマンボと歌謡曲の融合を実践した立役者が美空ひばりである。チエミ、いづみと共に三人娘と呼ばれ、映画でも競演していた頃がちょうどマンボの最盛期と重なる。ひばりは洋楽のカバーはもちろんのこと、オリジナルの和製ポップスでマンボを歌った。すぐに思い出されるのは、ブームを先駆けて1952年に発売された「お祭りマンボ」である。さらに翌年には「チューチューマンボ」、いよいよマンボが浸透してきた1954年には「江戸っ子マンボ」、少し間が空くが、1960年には「泣き笑いのマンボ」、1961年には「すたこらマンボ」という傑作も生まれている。和洋折衷のリズミカルな歌謡ボップスの極みだ。サンバにドドンパ、ツイストと、ひばりソングはリズム歌謡の宝庫であった。


ほかにも1959年にフランク永井と松尾和子のデュエットでヒットした「東京ナイト・クラブ」のように、マンボと銘打たれなくともそのアレンジが採り入れられた歌謡曲は少なくない。ペレス・プラードの死後、1991年にデビューした東京パノラママンボボーイズのメンバーが、その遺志を継ぐがごとくマンボの再普及に努めていることも付しておかなければならないだろう。無類に楽しい音楽であるマンボを現在の音楽シーンにもしっかりと根付かせたペレス・プラードの功績は大きかった。


≪著者略歴≫

鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。

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