2017年09月27日

発車メロディでたどる“銀座線音楽散歩”

執筆者:鈴木啓之

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日本初の地下鉄、銀座線の浅草―上野間が開業したのは1927(昭和2)年12月30日。物珍しさから、わずか5分ばかりの区間に乗車するために2時間待ちの行列が出来たという。その起工式が行われたのは、1925(大正14)年9月27日のことであった。治安維持法が公布され、後にNHKとなる東京放送局がラジオ放送を開始したこの年、鉄道関連では京王電鉄が開通し、国鉄山手線が環状運転を開始している。なお、東京地下鉄道によって建設・運営されていた浅草―新橋間は1934年に全通。東京高速鉄道の建設・運営による渋谷―新橋間は1939年に全通し、戦時下の1941年に統合されて帝都高速度交通営団(現在の東京メトロ)の運営となった。


現在、JRや私鉄の発車時のチャイムが駅毎に異なる様々なものが使用されていることは、多くの人に知られているところ。地下鉄ももちろん例外ではなく、東京メトロのプレスリリースには、「駅や街にゆかりのある曲を採用することで、その街を感じていただくとともに、お客様に東京メトロの路線や駅に『愛着』や『馴染み』を持っていただくことを目指します」とある。中でも、長い歴史を持つ銀座線は駅に合わせたゆかりの曲が最も多く使用されている路線である。2012年10月から銀座線に導入された発車メロディは、銀座駅の「銀座カンカン娘」、上野駅の「さくら(独唱)」、浅草の「花」。さらに2015年6月からは神田駅に「お祭りマンボ」が導入されて19駅中4つになった。ほかにオリジナル曲が使用されている駅が5つあり、あとは通常のチャイムの様だ。ちなみに他の路線だと、日比谷線の銀座駅が「銀座の恋の物語」、秋葉原駅が「恋するフォーチュンクッキー」、千代田線の乃木坂駅が「君の名は希望」、東西線の九段下駅が「大きな玉ねぎの下で ~はるかなる想い~」といった具合でさらなるご当地ものの登場を期待してしまう。一方で丸ノ内線や有楽町線のように一貫してオリジナルメロディを使用している路線もある。


そこで、銀座線で発車メロディがまだ設置されていない10駅について、どんな曲が相応しいかを勝手に考察してみたい。題して“銀座線音楽散歩”、まずは渋谷からスタート。現在大工事中の渋谷は、新たな東京オリンピックを前後して大きく風景を変えようとしている。銀座や新宿に比べると若者向けの印象が強く、70年代から発展した公園通り周辺の歌も多いが、ここは最もよく知られる、鈴木雅之&菊池桃子の「渋谷で5時」だろう。96年に発表された比較的新しめの作品。おとなりの表参道は千代田線や半蔵門線との乗り換え、ほど近い原宿へのアプローチでいつも賑わっている。NACというフォーク・グループが歌った、ズバリ「表参道」という曲もあるが、あまり知られていないだろう。やはり知名度では今ひとつながら、個人的な好みで、水谷豊「表参道軟派ストリート」(1978年)に一票を投じたい。阿木燿子=宇崎竜童コンビの作による軽快なナンバー。ただし実際に発車メロディに採用される可能性は極めて低いと思われる。


次の外苑前は、神宮球場に因んで「東京音頭」。ヤクルトスワローズの試合時、7回裏に行われるパフォーマンスは有名である。ヤクルトには「とびだせヤクルトスワローズ」という応援歌もあるが、「東京音頭」にすっかりお株を奪われてしまった感が強い。そして青山一丁目。都電時代の電停から変わらない名称ながら、付近の実際の住所は北青山1丁目と南青山1丁目である。タイトルに青山が掲げられた歌謡曲では、60年代は三田明の「青山通り」(1966年)が思いだされる。シングル「恋人ジュリー」のB面で、今でもコンサートで歌われる人気曲だそう。80年代には野沢那智と白石冬美が歌う「青山レイニィ・ナイト」(1982年)がTBSラジオ『パック・イン・ミュージック』の15周年記念盤として出された。もともとは声優ユニット“スラップスティック”のLPに収録されていた曲をナッチャコの名コンビでカヴァーした良曲なのだ。次の駅は赤坂見附。赤坂に関する歌は数多い中で2曲を厳選すると「赤坂の夜は更けて」と「コモエスタ赤坂」で異論はないだろう。西田佐知子や島倉千代子の競作となった「赤坂の夜は更けて」は、ムード歌謡のヒットを連ねた鈴木道明の作。TBSの社員だった氏には、ほかにも「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」や「夏の日の想い出」といった傑作がある。「コモエスタ赤坂」はロス・インディオスの代表作のひとつで、“コモエスタ”はスペイン語で“ご機嫌いかが”という意味合いらしい。


オリジナルの発車メロディが既に使われている溜池山王を挟んで、次の虎ノ門は、霞ヶ関ビルが間近に望める駅。自主制作盤のためまったく知られていない曲だが、山中やよいという人が歌っている「霞ヶ関ブルース」の存在をアピールしておきたい。新宿の京王プラザホテルが出来る前、霞ヶ関ビルがまだ日本一高いビルディングだった頃の代物であろう。次の新橋はサラリーマンが集う街として知られる。駅前のSL広場での街頭インタビュー風景はすっかりお馴染み。それほどヒットはしなかったものの、ムードコーラス好きの間ではちょっと知られた「新橋の雨」という隠れた佳曲がある。ポリドール盤の中川浩夫とアンジェラスと、クラウン盤の長浜勇二、山下洋治とムーディ・スターズとの競作だった。銀座を挟んで次は京橋。東京駅八重洲口から近い京橋の関連ソングとしては、これまた誰も知らないと思われるが、米山正夫先生が曲を書き下ろした八重洲地下街のテーマソング「しあわせの通りみち」がある。次の日本橋はスタンダードナンバーの「お江戸日本橋」が外せないところ。しかし同曲は三越の開店時にパイプオルガンで演奏される曲なので、ここは三越前駅に譲るとして、日本橋駅は1980年に五木ひろしが歌った「日本橋のうた」を推奨する。東京オリンピック後に着工される予定だという首都高の地下移設で、日本橋に広い空が甦る日が堪らなく待ち遠しい。


「銀座カンカン娘」「お祭りマンボ」「新橋の雨」撮影協力:鈴木啓之


≪著者略歴≫

鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。

東京レコード散歩: 昭和歌謡の風景をたずねて (TOKYO NEWS BOOKS) 単行本 – 2016/6/14 鈴木 啓之 (著)

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