2017年10月18日
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2017年10月18日
還暦を過ぎてもなおトップスターの輝きを放ち続ける郷ひろみ。そんな彼が誕生したのは1955(昭和30)年のこと。いわゆるポスト団塊世代のシッポであり、プレ新人類への端境期に当たるわけだが、同学年の新御三家はもちろんのこと俳優や音楽アーティストのほか、お笑いタレントやスポーツ選手まで各界の大物がずらりと並ぶ豊作の年度でもある。
だが、郷ひろみの存在感の本質はそんな世代論とは無縁の“突然変異”性にあると言えるだろう。いみじくもCBSソニーの担当ディレクター酒井政利は“海からやってきた南沙織”と対比して“突然、空から舞い降りた”とまるで天使か宇宙人かのような形容をしている。60年代の末にはカルメン・マキやピーターといったアングラそのものの存在をスターに押し上げることによって、“異質なタレントの魅力を生成りのまま提示する”極意を会得した酒井にとっては存分に腕の振るえる対象だったことは想像に難くない。
もちろんこれには、昨日まで芸能界にも歌謡曲にも全く興味のなかった少年をいきなりステージに上げるというジャニー喜多川独特の方法論も大きく作用している。母親の知人が応募したという映画のオーディションで不合格ながら同氏にスカウトされた後は、先輩フォーリーヴスのコンサートでフィーチャーされ、NHK大河ドラマ「新平家物語」にブッキングされるという破格の待遇でレコードデビューへの準備が進められた。なによりも重要だったのは当人がGSや青春歌謡の影響をほとんど受けていない存在だったために、斬新な音楽性で勝負することが出来たという点である。
そこで酒井がソングライター陣として起用したのが岩谷時子と筒美京平のコンビ。岩谷と言えば宝塚歌劇団スタッフから越路吹雪のマネジャー兼訳詞家に転身し、歌謡曲の作詞にも活動の場を拡げてはいたが、60年代まではザ・ピーナッツ、加山雄三といった渡辺プロダクション傘下のアーティストか、作曲家いずみたく系列の歌手など比較的対象が限られていた。そんな彼女の来歴とレパートリーを考えれば、このタイミングでの登用はやはり酒井の慧眼というべきだろう。
筒美京平と女性作詞家そして酒井政利プロデュースという組み合わせは前年の南沙織に続くものだが、郷ひろみの楽曲における筒美サウンドの最大の特徴はデビュー曲「男の子女の子」に顕著なようにR&B/ソウルのエッセンスを大胆に取り込んだ点にある。もちろん60年代のGSや女性歌手でも各種の試みは行われてきたし、同時代の平山三紀や堺正章での実験も軽視できないが、やはりダンス重視のジャニーズ流儀と本人の個性的な声質/唱法があってこそ開花した方向性であろう。この路線は74年夏の「君は特別」まで継続され、次の「よろしく哀愁」からは作詞家を替えて第2期へ突入するのだが、半年後の75年春に郷は他の事務所へと移籍する。
「男の子女の子」写真提供:ソニーミュージックダイレクト
≪著者略歴≫
榊ひろと(さかき・ひろと):音楽解説者。1980年代より「よい子の歌謡曲」「リメンバー」等に執筆。歌謡曲関連CDの解説・監修・選曲も手掛ける。著書に『筒美京平ヒットストーリー』(白夜書房)。
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