2016年06月30日

RCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」はまさに聴いたことのないヒット曲だった

執筆者:今井智子

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6月30日は、「トランジスタの日」だそうだ。1948年、アメリカのAT&Tベル研究所のウィリアム・ショックレー、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテンが発明したトランジスタが初めて公開された日だ。1956年に3人は、この発見でノーベル物理学賞を受賞した。この発明により、トランジスタ・ラジオも生まれ、1954年アメリカのリージェンシー社が世界初のトランジスタ・ラジオTR-1を発表。実はソニーの創始者である盛田昭夫も同じ頃トランジスタ・ラジオの構想を持っていたため落胆したらしい。ちなみに、3月22日が日本で初めて試験放送が行われたラジオ放送記念日で、7月12日が実際に放送が始まったラジオ放送の日である。


 トランジスタ・ラジオはそれまでの真空管ラジオと違い、小型で軽量なうえ乾電池でも使え、しかも多くの家電メーカーが参入したことで価格も比較的手頃になり、折しも高度経済成長期もあって急速に普及した。1960年代に入ると深夜放送が始まり、次第に若者をターゲットにした番組として充実していく。60年代後半には民放局がこぞって個性的な番組を放送し、海外のヒット曲をいち早く紹介したり、フォーク・クルセダース「帰ってきたヨッパライ」を皮切りにアンダーグラウンドなヒット曲やスターも生みだした。ラジオが家族のものから若者のものに、一気に変わっていった時代だ。RCサクセションもトリオでデビューした頃に「僕の好きな先生」が深夜放送で人気を呼んでいた。


 「トランジスタ・ラジオ」は、そんな時代を強烈に感じさせる曲だ。授業をサボって校舎の屋上で、タバコをくゆらしながらトランジスタ・ラジオを聴いている。学校がある時間にラジオからローリング・ストーンズが流れたりするのは、FEN(現在のAFN。米軍による放送網)だろうか。レコードを好きなだけ買うほど小遣いのない身では、ラジオで好きな曲が流れるのを待ち焦がれるしかなかった。新しい曲と出会うのもラジオが一番の窓口だった。うまくいけば1日に何回もその曲を聴くことができる。そのために授業をサボっていたのかもしれない。

 大雑把にアメリカだのイギリスというのではなくベイエリアとかリバプールなど、ちょっと細かな地名を言って通ぶった気持ちになる。そんな言葉もラジオから覚えたばかりなのだが、彼女の前では生まれた時から知っているような顔をして言う。彼女は自分のことなど眼中にないかもしれないのだが。そんな情景まで浮かんでくる曲だ。


 シングルとして「トランジスタ・ラジオ」がリリースされたのは1980年10月28日。その日に行われた日比谷野外音楽堂でのライヴで、この曲を聴いた時のことは今でも覚えている。誰も知らないヒット曲が、野音の空に溶けていった。チャボのダイナミックなギターから梅津和時のソプラノ・サックスが奏でる印象的なリフになり、清志郎が「WOO~」と歌いだす。ホットなメッセージが空に溶けていき、聴いた瞬間に歌詞が体に染み込んだ。ポップで甘酸っぱくソウルフルでエヴァーグリーンな、まさに聴いたことのないヒット曲。ロック・バンド編成となりライヴで評判を呼び人気を高めていた当時のRCサクセションにとって、これは初のヒット曲になった。


 ちょうどFM放送が深夜放送に代わり10代に浸透し始めていたことも呼び水になったと思う。トランジスタ・ラジオがFMもキャッチする進化を遂げ、カセットと合体して録音できるものが普及していた。FM局が全国で急増するのはこの2、3年後だが下地は十分にできていた頃だ。もう誰もトランジスタ・ラジオなんて呼ばなくなっていたけれど、聴いたことのないヒット曲をアンテナがキャッチするのを待っていた気持ちは変わらなかったはずだ。


 もう一つ付け加えれば、これは初めてRCサクセションらしい音で仕上げられたシングルではないかと思う。「ステップ」までバンドの意向が汲まれずスタジオ・ミュージシャンによる録音だったことは周知だが、ここにきてようやくバンドの演奏がほぼそのまま使われている。80年春の久保講堂公演のライヴ盤『ラプソディ』の成功がものを言ったのだろう。録音には梅津和時・片山広明ら当時の生活向上委員会から4人が参加しているほかクレジットはない。今見ると、ジャケット・デザインがRCらしからぬテクノ風ではあるが、この時期のバンドの熱っぽさが演奏からあふれ出ているように思える。そして、これらの曲を収録したアルバム『PLEASE』へとRCサクセションは進んで行く。

PLEASE+4 RCサクセション

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