2017年02月15日

2月15日はすぎやまこういちの名作、カーナビ―ツ「泣かずにいてね」の発売日(1968)

執筆者:本城和治

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ザ・カーナビ―ツのシングル4作目「泣かずにいてね」は初めてプロの作曲家に委ねた作品だった。その曲を提供してくれたのはザ・タイガーズのデビュー曲から作詞家の橋本淳とのコンビで作品を提供していた新進の人気作曲家〈すぎやまこういち〉だった。


すぎやまこういち、すなわち椙山さんがザ・カーナビ―ツの新曲を手掛けた切っ掛けについては実ははっきり覚えていない。彼は当時フジテレビの人気音楽番組『ザ・ヒット・パレード』の敏腕ディレクターとして業界で有名な存在であり、ザ・カーナビ―ツも何かと番組でお世話になっていた。彼らのプロダクションの社長が当時経営していたイタリアン・レストランにも時々椙山さんが顔を見せていたようだが、椙山さん本人から作曲のラブコールがあったとも思うし、歌謡曲の匂いのしないタイガーズの諸作品を評価していた私が作曲をお願いしたのかもしれない。いずれにしてもごく自然に当時超多忙な椙山さんがザ・カーナビ―ツの為にひと肌脱いで下さることになり、果たしてどんな作品になるのか期待に胸が膨らんだ。


曲が出来上がって初めてのミーティングに椙山さんは当時愛用の超豪華な特大のキャンピング・カーで築地のビクター・スタジオの前に横付けした。メンバー全員でその車に乗り込んで打ち合わせに及んだのは言うまでもない。曲は3曲出来ていた。確かその3曲ともリハーサルをして録音に臨んだ。


ロマンティックなバラード調の「泣かずにいてね」は特に私の心を捉えた。多分グループ・サウンズに彼が提供した作品中ベスト3に入る名曲だと思う。唯一の心配は椙山さんの編曲は書き譜だが、メンバーはヘッドアレンジしか経験していないことだ。幸いリーダーの越川君が譜面に強いので比較的スムースにレコーディングは進んだ。アイ(高野)君のソロ・ヴォーカルは哀感が篭った素晴らしい熱唱だった。苦労したのは臼井君リードの4声のコーラスだ。メイジャー7th系のハイセンスなハーモニー・ワークはメンバーも初めての経験で一筋縄では行かなかった。


B面となったガレージ・ロック調の「チュッ!チュッ!チュッ!」も椙山さんらしいユニークなロックン・ロールの傑作ナンバーでB面にするには惜しいくらいだ。事実こちらをA面にした方が成功したかもしれないという反省があったのも確かで、カーナビ―ツらしい快活なロック・グループとしての魅力が発揮された仕上がりだった。


結局このシングルはオリコン・チャートで41位に留まってしまったのは残念であった。名曲が必ずしもヒットするという保証はないのだ。そしてこの一月後の3月15日には同じ橋本淳・すぎやまこういちコンビによるザ・タイガーズの最大のヒット・シングルとなった「銀河のロマンス/花の首飾り」が発売されたのである。


≪著者略歴≫

本城和治(ほんじょう・まさはる):元フィリップス・レコードプロデューサー。GS最盛期にスパイダース、テンプターズをディレクターとしてレコード制作する一方、フランス・ギャルやウォーカー・ブラザースなどフィリップス/マーキュリーの60'sポップスを日本に根付かせた人物でもある。さらに66年の「バラが咲いた」を始め「また逢う日まで」「メリージェーン」「別れのサンバ」などのヒット曲を立て続けに送り込んだ。

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