2017年09月10日

僕の「男女論」と「女性観」を表出したものが『乙女の儚夢』だった

執筆者:あがた森魚

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1972年、ベルウッド・レコード第1弾として「赤色エレジー」でデビューし、じわじわとヒットとなり、秋にアルバム『乙女の儚夢』のリリースが決定。「赤色エレジー」の漫画の原作者の林静一さんの世界をまるごとアルバムに込めたいと、ジャケットのデザインもお願いした。題字は赤瀬川原平さん。そしてあの豪華な観音開きのジャケットができあがった。ブックレットは映画のパンフレットのようなものをイメージして制作。音とジャケット、そしてパンフレットとすべてをまとめて小宇宙にしたかった。その『乙女の儚夢』のオリジナルリリースが45年前の1972年9月10日だった。


歴史を振り返るというほどではないが、僕のような体質の人間にとっては、生きることは嵐の通り道を伝って歩いてるようなものかもしれない。そう願って生きてるわけでも無いし、そんな、無茶ばかりやってるわけでもないのに、何故か、いつもざわざわと、風が騒いでいる。


たとえば、自分が、「赤色エレジー」でデビューしたいきさつや、そこから 音楽活動がメジャー展開して、テレビや、ラジオや、メディアに引っ張り出され、全国各地にコンサートに行ったり、映画にかかわりをもったり、そしてデビューアルバム『乙女の儚夢』が、出来上がったりといったいきさつに 関しても、正直に言ってそれは、時の気運や勢いがあってのことと思う。たしかに、あの時期、僕自身は何かしら「創作」するということに血気ばしっていたし、今振り返っても、ある種恐いもの知らずで、実に無邪気に、アグレッシブに、事に取り組んでいた。


では、そもそもなぜ『乙女の儚夢』だったのか。ひらたくいうと、僕の「男女論」であり、「女性観」を表出したものでもある。1枚のデビューアルバムとしての完成度は、未熟なものでもあったかもしれないが、僕自身の男女論、及び、女性観という意味でのものの考え方や視点は、一つのこだわりのあるかなりガンコなものだったにちがいない。そして、実は、その視点は、2017年の今現在も、全く変っていない、ともいえる。


処女作やデビューアルバムは、その作家性の凝縮であるといわれるが、『乙女の儚夢』は僕自身の思想性と言えば大げさであれば、妄想性といって もさらに大げさであれば、僕自身の「理想への希求、そこから拡がるやみくもな憧憬のようなもの」がかなり盛り込まれている。ベルウッド・レコードからの2作目である『噫無情』では、その辺がさらに凝縮され、完成形を得ているが、その原形は、それはその『乙女の儚夢』によってなされた。


いまさらにして思う。本当にその『乙女の儚夢』は、「赤色エレジー」のヒットを経たその最大瞬間風速によってこそ成立した、無邪気かつ天邪鬼なアルバムだろう。月刊漫画「ガロ」に描かれた「赤色エレジー」の林静一さんの世界の影響が多大であった。ともかく、当時、僕自身を圧倒していた林静一さんの世界をすべて吸収し、僕自身の作品として昇華しつくしてみせようという創作意欲に充ちていた。林静一さんから発せられる、当時彼がかかわっていた、アニメーションの東映動画の世界、それはウォルトディズニーとも対比され、また彼自身の漫画「赤色エレジー」のコマ割り(カット割り)にも反映されていた。ウォーホルやリキテンスタインにも代表されるポップアート的な手法。アメリカン・アートを視野に持ちつつ、独自の激しいジャポニズム、それは、明治大正昭和を通した、日本の近過去にも通じている。彼の画集を出版していた中野区弥生町の幻燈社にも行った。そこは夢二的空間で時間が止まっていた。僕は、日本の近代モダニズムを音楽で表現してみたい気持ちにかられた。大正ロマン、近代デモクラシーといったものが、モチーフに上がった。少女雑誌の世界を模してみたかった。少女雑誌の前に高畠華宵や竹久夢二、蕗谷虹児、武井武雄といった近代のモダニズムを彩った画家の姿が踊った。


で、結果、その凝縮点は、男女の深い愛情、そして近代デモクラシーを通した男女の社会への視野がテーマであった。


僕は、その辺の事を、どこで感じ取りどこで学んだだろう。


その原点に、小樽市立入船小学校の担任だった佐藤敬子先生から学んだ多くのことがあるのではないだろうか。


その小樽市立入船小学校が、今年度で閉校になることが決まった。この秋、ふたたび佐藤敬子先生を探して映画を撮影することになった。ぜひ楽しみにしていてください。

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◆2017年9月19日(火)

サエキけんぞうのコアトーク Vol.84

あがた森魚 ベルウッドを語る

~あがた森魚&はちみつぱい『べいびぃろん(BABY-LON)』発売記念

at 渋谷・LOFT9(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS(キノハウス)1F)

出演: あがた森魚 ゲスト: 三浦光紀 考証人: 篠原章

司会&プロデュース: サエキけんぞう

◆2017年9月20日(水)

ベルウッド・レコード45周年記念UHQCD Collection

全20タイトル同時リリース

監修:元ベルウッド・レコード・プロデューサー 三浦光紀

2017年最新デジタル・リマスタリング

新規ライナーノーツ付

(あがた森魚 アルバム3枚を書き下ろし!)


『乙女の儚夢』(KICS-2632)


『噫無情』(KICS-2633)


『僕は天使ぢゃないよ』(KICS-2634)

Special price: 1,700円+税

◆2017年10月8日(日)

ベルウッド・レコード45周年記念コンサート

at 新宿文化センター 大ホール

◆ドキュメンタリー映画

『アガタカメラ~佐藤敬子先生を探して~』製作快調!


≪著者略歴≫

あがた森魚(あがた・もりお):'48 年北海道生まれ。'72年デビュー曲「赤色エレジー」の大ヒットで一躍時代の寵児に。20世紀の大衆文化を彷彿とさせる幻想的で架空感に満ちた作品世界を音楽、映画を中心に展開。全国でライヴを展開中。劇場公開作品3本を監督、俳優や執筆などでも活躍。

乙女の儚夢 あがた森魚

噫無情(レ・ミゼラブル) あがた森魚

僕は天使ぢゃないよ あがた森魚,大滝詠一

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