2018年12月28日
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2018年12月28日
“デコちゃん”の愛称で親しまれ、子役時代から戦前・戦後に亘って活躍した女優の高峰秀子が世を去って早8年になる。成瀬巳喜男監督や木下恵介監督をはじめ、日本を代表する名匠の作品に出演し、演技派女優として確固たるポジションを築いた。1970年代の終りに女優業を引退した後はエッセイストとして活動して多くの著書を遺している。2000年にキネマ旬報誌が発表した「20世紀の映画スター」読者選出の日本女優部門で第1位になるなど、引退後も我々日本人にとって忘れられない存在であったが、2010年に86歳で没した。本日12月28日は永遠の名女優・高峰秀子の命日である。
芸能界入りのきっかけは5歳の時に養父に連れられて松竹蒲田撮影所へ見学に行ったことだった。たまたま行われていたという子役オーディションに飛び入り参加したところ、ヒロインの娘役に選出されて撮影所に入社することになる。五所平之助監督や島津保次郎監督、小津安二郎監督の作品に出演して天才子役としての名声を高めた。その後、ステージで共演した歌手の東海林太郎に気に入られて養女になりかけたこともある。この辺りの話は彼女の随筆『いっぴきの虫』に詳しい。12歳の時にはP.C.L.へ移籍(すぐに東宝となる)して女優業を続けることに。1938年に主演した山本嘉次郎監督の『綴方教室』は初期の代表作となる。撮影所のアイドルとなった彼女に“デコ”の愛称を命名したのは喜劇俳優の岸井明だった。1940年の主演作『秀子の応援団長』では映画にも出演している灰田勝彦が歌った主題歌「青春グランド/燦めく星座」が大ヒットに至った。
歌手としての高峰秀子は、初期にはポリドールで1941年に吹き込んだ「煙草屋の娘」や1942年の「森の水車」があり、戦時下に出された「森の水車」はメロディが米英調という理由で内務省の検閲により発売してまもなく発禁処分になってしまったことで知られる。ほかに国産初の総天然色映画として1951年に公開された松竹『カルメン故郷に帰る』の同名主題歌などのレコードもあるが、なんといっても歌の代表作は「銀座カンカン娘」であろう。新東宝で製作され、東宝が配給した1949年の同名映画の主題歌で、劇中では共演の笠置シヅ子や岸井明と共に歌われるシーンが有名。レコードは高峰の歌唱でビクターから発売された。B面は共演者のひとり、灰田勝彦がやはり映画の中で歌った「わが夢、わが歌」であった。いずれも作詞は佐伯孝夫、作曲・編曲は服部良一。同じ年のヒット、藤山一郎の「青い山脈」や灰田勝彦「東京の屋根の下」も服部の作だったことを思うと、氏の当時の活躍ぶりが窺える。なお“カンカン娘”というのは映画の脚本を担当した山本嘉次郎が考案した造語であったという。
面白いのは4番の歌詞に「カルピス」が登場することだ。当時のキャッチフレーズだった“初恋の味”も採り入れられており、いわゆるタイアップソングであろう。一般的にCMソング第1号といわれている灰田勝彦の「僕はアマチュアカメラマン」が1951年だから、純粋なCMソングではないにしても、かなり早い時期に具体的な商品名が織り込まれた流行歌だったといえる。ちなみに当時ビクターが宣伝用として刷ったチラシに歌詞が載っているものがあるが、そこには3番までしか掲載されていない。大ヒットした歌は、スタンダード化し、1977年には山田洋次監督の映画『幸福の黄色いハンカチ』の中で統一劇場のメンバーが歌うシーンがあったり、ダディ竹千代&東京おとぼけCatsをはじめ、井上陽水やSTARDUST REVUE(スターダスト☆レビュー)らカヴァーも多い。所ジョージの「銀座アンノン娘」や、おあずけシスターズ「東京カンカン娘’84」などパロディーが見られるのもそれだけ大きな歌である証拠だろう。2012年10月からは、東京メトロ銀座線銀座駅の発車メロディとして使用されている。
≪著者略歴≫
鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。
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