2019年03月20日

1970年の本日3月20日、ザ・タイガース13枚目のシングル「都会」がリリース

執筆者:小野善太郎

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実質的に当時のザ・タイガース最後の活動年となった1970年の最初のシングル「都会」は、初めてクニ河内が作曲を担当。クニはグループサウンズの実力派、またギターレスで異端派の印象もあったハプニングス・フォーのリーダーでキーボード奏者、デビュー曲「あなたが欲しい」(67年)なども作った才人。同じ渡辺プロ所属であってもタイガースとの音楽的接点の端緒は同70年2月に発売された岸部一徳・シロー兄弟のアルバムで、他のGSメンバーも集った『トラ70619』のはず(一部の作曲および編曲)。また同じ3月に発売されたザ・ピーナッツの「男と女の世界」はジュリーが作曲して話題を呼んだが、その編曲も手掛けた。ちょうど年代が変わる節目に新たなセンスでとタイガースの音楽も託されたのであろうか。



そして、この3月と言えば、かの大阪万博が15日に開幕。1964年の東京オリンピックに次いで戦後日本の復興を象徴する国家的イベントとなったが、私は当時15歳、夏休みに長野県の田舎から遠征して2日間訪れることが出来た。やはり強烈なのは入り口近くの透明な大天井を突き破ったかのように屹立する岡本太郎作の「太陽の塔」(昨2018年から再公開された内部ツアーにも行ってみたが、今も残っているのは嬉しいにしても、もはや周囲に建物が無い処にポツンと立っているだけなのはチト淋しい)、そしてその先一面に広がる各国のパビリオン群は、いずれも独特な造形で、SFの未来世界に紛れ込んだかのようだった。


万博では様々な音楽会も開催されたが、5月の『ヤング歌謡フェスティバル』で「都会」は「フェスティバル賞」を受賞。これには渡辺プロ以外の橋幸夫やザ・スパイダースらも参加したとはいえ、渡辺美佐・副社長が万博の音楽プロデューサーだったこともあってか、やはり渡辺プロ色が濃かったようで、森進一らと競った布施明「愛は不死鳥」がグランプリを獲得。しかし、確か「一般人気投票」では、前半は油断させておいて後半に票を集中させるという頭脳プレイを仕掛けたスパイダースが本命視されたタイガースを大逆転して一矢報いた、なんてこともあったと思う。また期間中には何度かタイガースのコンサートも行われた(ほんの一部だがタイガースDVDボックスで観られる)。


ともかく半年間に渡り6,421万人超を動員した大きな祭典であり、新しい年代も迎えて日本国民の大半は「こんにちわぁ♪こんにちわぁ♪」と浮かれた気分でいたと思われるのに、この「都会」は、むしろ結果的にはシラケの70年代となる予感が漂うような雰囲気で、付けられた英題「Solitude in the City」のように「都会の孤独」とか「今はひとり」というタイトルがふさわしい曲だったのが印象深いが、それは作詞した山上路夫の「詩人の直感」だったのか。


そういえば、東京オリンピックの1964年から万博の70年までは、奇しくもザ・ビートルズの日本を含む世界的ブレイクから解散までの期間と合致することになるのも面白い。


より興味深いのはB面「怒りの鐘を鳴らせ」の方かな。「都会」と同じ作家コンビながら当時としてはヘヴィなニューロック風ナンバーで、冒頭の「鐘」が連打される効果音は60年代後半にピーター・フランプトンが在籍したザ・ハード(The Herd)の「夜明けを求めて」がヒントになったかもしれない。また曲調も似ているように思われるが、タイガースが好んでライヴでカヴァーしたポール・ジョーンズ「傷だらけのアイドル」とか、アダモ「ヘイ・ジュテーム」、はたまたグランド・ファンク・レイルロード「エニーバディズ・アンサー」っぽい感じも。


さらに同曲は、この1年後、もはやタイガースは解散していた71年4月、ジュリーと岸部一徳がメンバーとなったPYGのデビュー・シングル「花・太陽・雨」およびB面のジュリー作曲「やすらぎを求めて」の曲調にも通じるものが大きいように思われる(いずれも作詞は岸部)。「花・太陽・雨」は(今度はジョン・レノン「マザー」の影響だろうが)除夜の「鐘」のようなイントロで始まるし、「やすらぎを求めて」と「夜明けを求めて」もタイトルが似ている。とは、ま、こじつけですがの~。


はてさて、この日本では半世紀を経て再度の開催となる東京オリンピックが来年に迫って来ており、また前回と同じくセットのように大阪万博も2025年に控えている訳だが、当時とは時代背景も大きく異なるし、国民の熱気にも大いに差があると思われるが、はたしてどうなるかな。

ザ・タイガース「都会」ハプニングス・フォー「あなたが欲しい」ジャケット撮影協力:鈴木啓之


≪著者略歴≫

小野善太郎(おの・ぜんたろう):高校生の時に映画『イージー・ライダー』と出逢って多大な影響を受け、大学卒業後オートバイ会社に就職。その後、映画館「大井武蔵野館」支配人を閉館まで務める。現在は中古レコード店「えとせとらレコード」店主(実店舗は2020年の東京オリンピック後に閉店予定)。 著書に『橋幸夫歌謡魂』(橋幸夫と共著)、『日本カルト映画全集 夢野久作の少女地獄』(小沼勝監督らと共著)がある

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