2019年05月23日

ザ・タイガース初!メンバーのオリジナル曲がカップリングされたシングル「素晴しい旅行」

執筆者:中村俊夫

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1970年初頭、すでにGS(グループ・サウンズ)ブームは終息。前年からザ・カーナビーツ、ザ・ビーバーズ、ザ・サベージ、ザ・ダイナマイツ、ザ・フィンガーズ等、人気GSたちの解散劇が相次ぎ、古参のザ・スパイダース、ブルー・コメッツも、メンバーのソロ活動やムード歌謡路線で辛うじてバンドとしての命脈を保っている状態で、もはや解散は時間の問題だった。


後進のザ・テンプターズやオックスの人気に押されながらも、なんとかトップGSとしての人気を維持していたザ・タイガースも、前年に勃発した瞳みのるの非公式な脱退表明以来、渡辺プロダクションと解散を前提としたミーティングを何度か重ねており、あとは解散の時期をいつにするかを協議する段階に入っていた。


そんな状況の1970年5月23日、タイガースは新作シングルのレコーディングを行なう。用意された楽曲は沢田研二が作曲した「素晴しい旅行」と、森本太郎作曲の「散りゆく青春」(両曲共、作詞は山上路夫)。メンバーのオリジナル楽曲をフィーチャーしたシングルとしては、森本太郎が作詞・作曲を手がけた「青い鳥」(68年12月1日発売)以来で、両面共メンバーの提供曲を収録したタイガースのシングルは、これが最初であり、その次は11年後の81年11月21日にリリースされた“ザ・タイガース同窓会”シングル「十年ロマンス」(沢田)c/w「生きてることは素敵さ」(加橋かつみ)まで待たなければならなかったのである。


ジュリーがタイガースにオリジナル楽曲を提供するのは、これが初めてだったが、この年の3月1日にリリースされたザ・ピーナッツのシングル「男と女の世界」c/w「しあわせの誓い」も、両面共ジュリーの提供曲(作詞・山上路夫/編曲・クニ河内)であり、彼にとって公式レコーディングされた3曲目のオリジナル作品が「素晴しい旅行」だったのである。


R&Bシンガー&ギタリスト、ボビー・パーカーの「Watch Your Step」(61年、全米51位)をほうふつさせるギター・リフが全編に流れる「素晴しい旅行」の基本的なアレンジはタイガース自身によるもので、ホーン・セクションのアレンジのみをスパイダースの井上堯之(当時は孝之)が手がけている。ベースの岸部一徳(当時は修三)を含め、奇しくも翌年結成されるPYGのメンバーとなる3人が参加したレコーディングだったのである。


当時井上堯之は、井上順の初ソロ・シングル「人生はそんなくり返し」c/w「本気で君だけを」の編曲を手がけるなど、アレンジャーとしての才能を開花しつつあった時期で、おそらくそれが今回の起用に繋がったものと思われる。彼がスパイダース関連以外の外部作品の編曲を手がけたのは、これが初めてではないだろうか? なお、井上はギタリストでもあるが、ここでは楽器類には一切参加していない。


一方の「散りゆく青春」は、タイガースと同じ渡辺プロダクション所属のザ・ハプニングス・フォーのリーダーであり、タイガースの前シングル「都会」(70年3月20日発売)の作・編曲を手がけたクニ河内が編曲を担当。作曲者の森本にとっては、「青い鳥」に始まり、ファンクラブ会員だけに頒布された「あわて者のサンタ」(69年12月/作詞は瞳みのる)、サリー&シローのアルバム『トラ70619』(70年2月1日発売)への提供曲「白い街」と「サンシャイン・フォー・ユア・スマイル」、70年3月10日発売の吉沢京子のデビュー・シングルとなった「幸せってなに?」c/w「知らない人の群のなかを」に続く、7曲目の公式レコーディング自作曲となった。


「素晴しい旅行」と「散りゆく青春」はタイガースの通算14作目のシングルとしてカップリングされ、70年7月1日にリリース。すでにオリコン・チャート20位内にシングル曲を送り込める余力があるGSなど皆無の中、最高位15位という健闘ぶりで、トップGSとしての面子を保っていたが、4カ月後にリリースされる次作シングル「誓いの明日」とアルバム『自由と憧れと友情』(70年12月15日発売)を最後にタイガースは解散してしまうのである。


面白いことに、「素晴しい旅行」と同じ日にザ・ピーナッツのシングル「東京の女」がリリースされ、オリコン47位まで上っているが、同曲は沢田研二の提供曲 (作詞・山上路夫/編曲・宮川泰)だった。さらに彼は、この年の12月にリリースされたザ・ピーナッツの次作シングル「大阪の女」のB面にも自作曲「青白いバラ」を提供している他、彼女たちが翌71年5月にリリースしたシングルは、ジュリーの自作2曲「なんの気なしに」「北国の恋」のカップリング(両曲共、作詞・山上路夫/編曲/宮川泰)である。


5年後には夫婦となる(その後離婚)ジュリーと伊藤エミの仲が決定的なものになったのもこの時期? と考えるのは下衆の勘繰りだろうか…?

ザ・タイガース「素晴しい旅行」ザ・ピーナッツ「東京の女」ジャケット撮影協力:中村俊夫&鈴木啓之


≪著者略歴≫ 
中村俊夫(なかむら・としお):1954年東京都生まれ。音楽企画制作者/音楽著述家。駒澤大学経営学部卒。音楽雑誌編集者、レコード・ディレクターを経て、90年代からGS、日本ロック、昭和歌謡等のCD復刻制作監修を多数手がける。共著に『みんなGSが好きだった』(主婦と生活社)、『ミカのチャンス・ミーティング』(宝島社)、『日本ロック大系』(白夜書房)、『歌謡曲だよ、人生は』(シンコー・ミュージック)など。最新著は『エッジィな男 ムッシュかまやつ』(リットーミュージック)。
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