2015年08月02日

天才漫画家のギャグ世界を彩った音楽たち

執筆者:鈴木啓之

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赤塚不二夫が紛れも無い天才であったことは、その著作を読めば明らかである。殊に初期の「おそ松くん」や「天才バカボン」には、ギャグに交えてほのぼのとしたペーソスが感じられ、卓越した才能と共に作者の温かい人間性も見て取れる。漫画を原作としたアニメやドラマには、ともすれば元の作品の魅力が半減してしまうケースが往々にしてありがちだが、こと赤塚の作品に関しては、アニメも充分に楽しませてくれる作品ばかりなのだ。生前、赤塚がよく言っていた言葉にその秘訣があると思われる。 


「いくら僕の漫画が元でも、アニメなりドラマなり、一旦お任せしたものに僕は一切口出ししないんだ。向こうもプロだからね。きっと面白いものを作ってくれると信じてるから。」
この潔い姿勢こそ、赤塚原作のアニメ作品が多くの人々を魅了した理由であろう。そしてそれらの作品に欠かせないのが、賑やかな赤塚ワールドを彩った音楽である。最初のアニメ化作品『おそ松くん』の主題歌は複数あり、当時流行っていたソノシートが次々に発売された。出演した声優たちが歌っているのが最初で、途中からは藤田まことが歌った新主題歌も。さらにはダーク・ダックスが歌った「シェーの歌」といった変わり種もある。




『ひみつのアッコちゃん』の主題歌は余りにも有名。何度リメイクされても常に同じ曲が使われたことで、世代を超えて女子たちに愛されているメロディである。最初の岡田恭子に始まり、堀江美都子や朝川ひろこが歌い継いだ。作曲は小林亜星、作詞には「ひょっこりひょうたん島」の脚本を手がけた井上ひさしと山元護久が名を連ねている。水森亜土が歌うエンディングテーマ「すきすきソング」にもアバンギャルドで良かった。そして『天才バカボン』。この主題歌は一世一代の傑作といえる。西から上ったお日様が東に沈むという一節を逆にして、太陽は東から上って西に沈むと覚えた輩は少なくないはず。歌っているアイドル・フォーはもともとムードコーラスのグループながらコミカルな味を得意とし、作品の不条理な世界感を見事に表現している。『巨人の星』や『アタックNo.1』を手がけた渡辺岳夫の作曲だった。その後作られた『元祖天才バカボン』は主題歌「タリラリランのコニャニャチワ」もさることながら、哀愁漂うエンディングの「元祖天才バカボンの春」が傑作だ。自分が41歳になった春に聴いた時がさすがに一番染みた想い出がある。


実は『天才バカボン』はアニメ化される以前にも歌が作られていて、「オバケのQ太郎」や「ど根性ガエル」でおなじみの石川進が歌っていた。そのほかにも、てんぷくトリオが歌った「走れバカボン」というイメージソングも存在する。それらは98年に出されたCD『赤塚不二夫ソングブック』で聴けるのでオススメ。スマッシュヒットとなった「ニャロメのうた」や、知る人ぞ知る「ケムンパスでやんす」、挙句の果てには赤塚本人が歌ったクール・ファイブ調の「駅前ブルース」まで収録されているお得盤である。赤塚不二夫の音楽ワールドはこれからも新世代の赤塚チルドレンによって歌い継がれてゆくに違いない。

赤塚不二夫

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